心房細動(AF)は言わずと知れた心原性脳塞栓症のリスクである。そのためAFを無症候性の段階で検出して抗凝固療法につなげれば、脳卒中を減らせるかもしれない―。このような仮説のもと組まれたランダム化比較試験(RCT)はしかし、いずれもネガティブに終わってきた。
そこでこの点を検討すべく最大級の試験を目指して始まったのが、RCT"GUARD-AF"である。しかし、症例数がコロナ禍のため目標に達しなかったのを割り引いても、無症候性AF積極的探索の有用性は、それを示唆するシグナルさえ観察されなかった。8月30日からロンドン(英国)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて、Renato D. Lopes氏(デューク大学、米国)が報告した。
GUARD-AF試験の対象は、AF診断歴のない70歳以上の1万1905例である。経口抗凝固薬(OAC)服用例は除外されている。米国内149のプライマリケア施設から登録された。試験設計時には5万2000例を登録予定だったが、COVID-19パンデミックの影響を受け、この例数にダウンサイズされた(登録遅延による資金提供打ち切り)。年齢中央値は75歳、女性が57%を占めた。CHA2DS2-VAScスコアは中央値で3.0(四分位範囲:2.0-4.0)である。
これら1万1905例は、パッチ式心電図計を14日間装着する「AF探索」群(5952例)と「通常治療」群(5953例)にランダム化され、非盲検で観察された(「探索」群でAFが検出された場合、施設責任者が抗凝固療法開始の要否を判断)。1次評価項目は「有効性」が「脳卒中による入院」、「安全性」が「出血による入院」である。いずれも発生の有無は、診療報酬請求データベースを用いて確認した。
・AF検出率
「AF探索」群では4.2%(252例)に、14日間の探索期間でAFが検出された。AF持続時間の中央値は72.3分間、2時間以上の持続が記録されたのは約25%だった。記録時間中に占めるAF持続時間割合(AF burden)は、中央値が0.78%、さらに半数以上の例でAF burdenは1%以下だった。またAFの内訳を見ると、心電図解析可能だった例(95%)中、88%が発作性AFだった。
なお興味深いことに、14日間のAF探索期間後のAF/心房粗動発見率も「AF探索」群では4.00/100人年となり、「通常治療」群(2.63/100人年)に比べ相対的に52%の高値となっていた(検定は示されず)。
・脳卒中入院
にもかかわらず、中央値15.3カ月間の観察期間後、「AF探索」群における「脳卒中入院」ハザード比(HR)は「通常治療」群に比べ、1.10(95%CI:0.69-1.75)と高い傾向を認めた。発生率は順に0.7%と0.6%である。
・出血入院
同様に「出血入院」にも両群間に差はなかった。「AF探索」群におけるHRは0.87(95%CI:0.60-1.26)、発生率は1.0%と1.1%だった。
Lopes氏は、積極的AF探索をするのであれば、より高リスクの患者をまず絞り込む必要があると述べた。また指定討論者であるGregory Lip氏(リバプール大学、英国)は、以下の3点を指摘した。
・まず第1点は、パッチ式心電計で得られるのはシングルリード心電図のため、AFの見落としがあった可能性である。
・また2点目として、"AF burden"が脳梗塞発生リスクに与える影響の検討が必要だと指摘した(同旨の発言はLopes氏からもあった)。
・さらに第3点として、仮に積極的AF探索により脳卒中が抑制できても、臨床的な有用性は大きくない可能性にも言及した。というのも、小規模RCT 4報(3万5836例)メタ解析では、積極的スクリーニング群における脳卒中相対リスクは0.91(95%CI:0.84-0.99)だったためである[McIntyre WF, et al. 2022]。
なおわが国の「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」は、「65歳以上の高齢者における定期的な検脈および心電図検査」を推奨クラス「Ⅰ」、エビデンスレベル「A」で推奨している。
本試験は報告と同時に、JACC誌ウェブサイトとJACC CE誌ウェブサイト(AF burden解析)に掲載された。
GUARD-AF試験はBristol Myers Squibb社とPfizer社から資金提供を受けた。B社からは加えて、3名が論文筆者として名を連ねた。