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非チフス性サルモネラ症(成人)[私の治療]

No.5234 (2024年08月17日発行) P.47

大西健児 (鈴鹿医療科学大学保健衛生学部救急救命学科教授)

登録日: 2024-08-16

最終更新日: 2024-08-14

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  • サルモネラ属菌の感染症であるサルモネラ症は,チフス菌やパラチフスA菌によるチフス性サルモネラ症と,この2菌種以外の非チフス性サルモネラ属菌による非チフス性サルモネラ症(non-typhoidal salmonellosis:NTS)にわけられる。NTSでは腸炎の患者が多く,非チフス性サルモネラ属菌は菌血症,関節炎,脊椎炎,骨髄炎,臓器膿瘍形成を引き起こすことや,大動脈瘤形成に関与することも知られている。ヒトへの感染経路として,菌が付着(混入)した肉類や鶏卵などの動物性食品を感染源とする経口感染事例が多く,また爬虫類が保有している菌の偶発的な経口感染が推測される事例もある。

    ▶診断のポイント

    一般的には,患者検体からサルモネラ属菌を分離することで診断する。腸炎では便,菌血症や感染性動脈瘤では血液,関節炎では関節液,脊椎炎では生検材料,骨髄炎では骨髄液,臓器膿瘍では膿瘍液が検体となる。また,MRIのような画像検査が,関節炎,脊椎炎,骨髄炎,臓器膿瘍の病巣把握に有用である。

    腸炎以外のNTSは,糖尿病や透析患者など免疫能力が低下した患者で発生しやすい傾向にあり,そのような患者では,免疫状態を調べることが望ましい。特に腸炎を発症せずに腸炎以外のNTSを発症した場合は,免疫状態の検索を行う必要がある。さらに,50歳以上の非チフス性サルモネラ属菌による菌血症患者では,動脈瘤の存在頻度が高いことが知られており,該当者に対し造影CTなどで胸腹部血管の検索を勧める考えもある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    感染性の腸炎は自然治癒する傾向がある。そのため,非チフス性サルモネラ腸炎の場合も,基礎疾患のない健常成人に発症した軽症例であれば,抗菌薬を投与せずに経過を観察する。中等症の腸炎であっても,抗菌薬を使用せずに対応できる症例が多い。重症の腸炎は抗菌薬投与の対象になりうると考えてもよい。

    腸炎の軽症,中等症,重症の判断は各臨床医によって異なるが,「抗微生物薬適正使用の手引き 第2版」においては,急性下痢症の程度を「軽症は日常生活に支障のないもの,中等症は動くことはできるが日常生活に制限があるもの,重症は日常生活に大きな支障のあるもの」としている。この考えは非チフス性サルモネラ腸炎にも適用してよいと思われるが,やはり担当医の判断に左右される。一般的に,菌血症,関節炎,脊椎炎,骨髄炎,臓器膿瘍などの腸炎以外の感染症は,抗菌薬投与の対象と考えられる。また,免疫不全者,ステロイドや免疫抑制薬の被投与者,人工血管,人工弁,人工関節などの植込み手術歴のある患者や炎症性腸疾患の患者に発生した,有症非チフス性サルモネラ腸炎は,症状の程度にかかわらず,抗菌薬投与を考慮する。腸炎以外の感染例では,抗菌薬を経静脈的に投与し,状態が改善すれば経口投与に変更する。

    経口薬の第一選択薬としてフルオロキノロン系抗菌薬を,第二選択薬としてマクロライド系のアジスロマイシンを,経静脈薬ではセフトリアキソンまたはフルオロキノロン系抗菌薬を選択する。可能であれば,抗菌薬投与前に患者検体を採取し,細菌検査に提出する。しかし,サルモネラ属菌による関節炎,脊椎炎,骨髄炎,心臓弁や大動脈瘤の感染例では手術が必要となる症例が多い。膿瘍を形成すれば外科的にドレナージを行う。

    腸炎では,脱水に注意するとともに積極的な経口水分摂取を勧めることが重要である。脱水状態と判断されればその程度により,経口あるいは経静脈的な補液を行う。

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