欧米の大規模臨床試験にて腎保護作用が証明されているSGLT2阻害薬だが、わが国の高齢糖尿病(DM)例でもDPP-4阻害薬に比べ腎機能低下を抑制する可能性が明らかになった。安全性の問題も見られなかったという。実臨床データ解析の結果として東京大学の鈴木裕太氏らが7月11日、Nephrology Dialysis Transplantation誌で報告した。
解析対象の母体は、日本在住で新規にSGLT2阻害薬かDPP-4阻害薬を開始した60歳以上DM患者9229例である。ただし尿路・性器感染症既往例(1582例)や糖尿病性ケトアシドーシス既往例(20例)などは除外されている。健保組合、国保、後期高齢者医療保険データベースから抽出した。
これら9229例から傾向スコア(PS)で背景因子をマッチさせたSGLT2阻害薬開始群(1271例)とDPP-4阻害薬開始群(5083例)を抽出し(計6354例)、推算糸球体濾過量(eGFR)の推移を比較した。
・背景因子
PSマッチ後集団の年齢中央値は68歳、60%が男性だった。また観察開始時のeGFR中央値は両群とも69.0 mL/分/1.73m2だった。HbA1c平均値は6.9%、血圧平均値は133/77 mmHgだった。腎保護薬はレニン・アンジオテンシン系阻害薬を53%が服用、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は3%だった。
・eGFRの変化(1次評価項目)
その結果、平均604日間のeGFR低下幅は、SGLT2阻害薬群でDPP-4阻害薬群に比べ有意に抑制されていた(-0.97 vs. -1.83 mL/分/1.73m2/年)。なお、蛋白尿陽性例のみ(全体の27%)で比較すると、有意差はなかった(-1.95 vs. -2.40mL/分/1.73m2/年)。全体での有意な群間差は、3通りの感度分析でも維持されていた。
・安全性
「重症低血糖」「糖尿病性ケトアシドーシス」「尿路・性器感染症」を含め、SGLT2阻害薬群で有意なリスク上昇を認めた有害事象はなかった。
鈴木氏らは、高齢DM例であってもSGLT2阻害薬の腎保護作用はDPP-4阻害薬を上回る可能性があるとする一方、今回確認されたeGFR低下の差がもたらす臨床的意義は改めて検討する必要があると考察している。さらに安全性についても、有害事象発生数そのものが少なかったため、結論はできないとする。
本研究は厚生労働省と文部科学省からグラントを受けた。