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ナイジェリアにおけるラッサ熱のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(21)]

No.5214 (2024年03月30日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-03-27

最終更新日: 2024-03-26

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●ラッサ熱とは1)

ラッサ熱は,ラッサウイルス(アレナウイルス科)に属し,西アフリカ一帯(ナイジェリア,リベリア,シエラレオネ,ギニア)および中央アフリカなどにみられる急性ウイルス感染症です。“ラッサ”とは1969年に最初の患者が発生した村の名に由来します。

ラッサウイルスの自然宿主は,西アフリカ一帯に生息する野ネズミの一種であるマストミスです。マストミスやその糞尿によって汚染された食品の摂取や食器の使用,また,塵や埃を吸い込むことなどによって感染します(経口感染)。さらに,患者の咳やくしゃみなどのしぶきに含まれるウイルスによって(飛沫感染),マストミスに直接,あるいはウイルスの含まれる患者の血液,唾液や排泄物に触れて,ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることによって感染します(接触感染)。

潜伏期間は1~3週間程度で,発熱,全身の痛み,嘔吐,下痢,粘膜からの出血が起こります。重症化すると顔面頸部の浮腫,眼球結膜出血,消化管出血,胸膜炎,ショックなどを引き起こします。重症経過の20%以上で治癒後,一側あるいは両側の難聴を示すことが報告されています。

治療には抗ウイルス薬(リバビリン)を使用します。発症6日以内に投与を開始すると,本来70~80%の致死率を数%に激減させることができます。病原体の検出,抗原の検出,病原体の遺伝子の検出,血清抗体の検出,により診断します。感染症法では1類感染症に定められており,診断した医師は,直ちに最寄りの保健所へ届け出ることが義務づけられています。

●過去には,日本でラッサ熱が報告されたことがある2)

2024年2月時点で,ラッサ熱は日本で唯一診断されたことがある1類感染症です。症例は66歳男性で,1987年にシエラレオネから帰国後にラッサ熱を発症し,収縮性心膜炎を合併したため,東京都内で心膜剝離術が施行されました。2003年8月より心房細動を認め,抗不整脈薬を投与されるも心房粗動を認めたため, 04年5月にカテーテルアブレーション目的に入院し,治療を受けました。この症例は,05年に第17回臨床不整脈研究会で報告されています。

●ナイジェリアにおけるラッサ熱のアウトブレイク3)

以前から風土病ではありますが,2024年1月以降,ナイジェリアでラッサ熱のアウトブレイクが発生しています。ナイジェリアCDCより,2024年1月1日〜2月18日までの間に合計477例の確定例,うち死亡85例(致死率17.8%)が報告されています。年齢では31~40歳が多く,医療従事者の感染も報告されています。アウトブレイクに対応するため,National Lassa fever multi-partner, multi-sectoral Incident Management Systemが稼働しました。

●ラッサ熱の感染対策は,自然宿主の動物や感染者との接触を避けること

ラッサ熱にワクチンはありません。そのため,流行地域では,ラッサウイルスの自然宿主であるマストミスと接触しないようにすることや,マストミスの糞尿による汚染の可能性があるものに触らないことが大切です。また,医療機関では,感染者の体液や飛沫との接触を避けることが大切です。

【文献】

1)厚生労働省:ラッサ熱.(2024年2月25日アクセス)

2)水澤有香, 他:心臓. 2005;37(Suppl. 4):11-7.

3)NCDC:An update of Lassa fever outbreak in Nigeria. (2024年3月6日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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