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【識者の眼】「ポップコーンによる窒息から食材の安全を考える」坂本昌彦

No.5197 (2023年12月02日発行) P.60

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2023-11-22

最終更新日: 2023-11-22

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日本小児科学会が未破裂ポップコーンによる窒息例を報告し、話題になりました。

報告では、1歳9カ月の女児がショッピングカートに乗りながらポップコーンの容器を持ち、容器の底に残っていたポップコーンを食べようと容器を傾け一気に摂取した直後にむせ込み、母が児の背部を叩きましたが、数個吐き出したのち間もなく顔色不良となり意識を失ったと紹介されています。通行人による心肺蘇生処置を施され、1分後に反応が出現し医療機関に搬送、挿管管理の上気管支鏡にて未破裂コーンを摘出し、幸い後遺症なく退院したとのことでした。日本小児科学会は「未破裂コーンは表面が丸く平滑であること、固く噛み切れないことから窒息リスクの高い食材で、過去にも誤嚥の報告もある」と注意喚起しています。

今回ポップコーンが話題になったのは、その食材が子どもにとって身近なものであるにもかかわらず、その窒息リスクがほとんど知られていなかったためでしょう。しかし、米国小児科学会はリスクの高い食材として、キャンディ、ピーナッツ、ブドウ、リンゴ、マシュマロ、チューインガム、ソーセージとともにポップコーンを挙げています。以前から指摘されている食材でもあるわけです。ちなみに米国で子どもの窒息の原因として最も多い食材はホットドッグとされています。これも意外かもしれません。しかしホットドッグの形状は円筒形で気道をふさぐサイズであり、乳幼児の下咽頭に押し込まれると気道を完全に閉塞してしまうこと、ソーセージを挟むパンは唾液を吸収して飲み込みづらくなることから、十分に窒息は起こり得るのです。

日本小児科学会は、「丸くてつるっとしている食品は子どもの窒息につながる」と注意喚起しています。一方で、丸くてつるっとしているもの以外にも、窒息につながる可能性のある意外な食材はあります。特に硬くて噛み切りにくい食材は小さくなる前に喉に送り込まれ、窒息の原因となります。たとえばエビや貝などが挙げられ、これらは2歳以上での摂取が推奨されています。噛み切りにくい食材としては他にもキノコ類が挙げられ、これは1cm程度に切ることが推奨されています。リスクの高い食材を知ることだけでなく、安全に食べるための調理法も大切です。

さて、今回のケースでは、もう1つ注目しておきたいことがあります。それは通りがかった方による迅速な心肺蘇生処置(バイスタンダーCPR)が救命につながった可能性が高いという事実です。どれだけ気をつけていても、すべての窒息のエピソードを防ぐことはできません。そして窒息の場合、蘇生のチャンスは最大9分とされています。

保護者や子どもに関わるすべての人が、心肺蘇生も含めて窒息が起きた場合の対処方法を知ることが重要で、医療者は引き続きその啓発に最大限努めていく必要があると考えています。

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[食材と調理法][心肺蘇生法]

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