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【識者の眼】「脳死と臓器移植─認知と啓発の強化を」薬師寺泰匡

No.5196 (2023年11月25日発行) P.60

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2023-11-02

最終更新日: 2023-11-02

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10月16日は「グリーンリボンデー」であった。そう言われてピンとくる医療従事者と、そうでない医療従事者がまだまだいるかもしれない。1997年10月16日に臓器移植法が施行されたことにちなんで、移植のことを話し合い、臓器移植に関して家族内で意思を確認しようという記念日が制定されたものである。グリーンリボンデーのある毎年10月は「臓器移植普及推進月間」として、厚生労働省も臓器移植に関する認識を広め、臓器移植を推進するべく啓発運動をしている。

現在私は自院での診療のほか、岡山大学病院高度救命救急センターで診療にあたり、後進の教育にも携わっている。救急科は人の死と臓器移植に深く関わる診療科である。脳死判定の機会も多く、まさに命と向き合う日々である。そのような状況の中、学生や研修医と自然に脳死の話題になることは多い。

たとえば、脳死の定義についてである。脳死については臓器移植法(臓器の移植に関する法律)に記載があり、脳死した者の身体を「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体」と表現しており、脳死の判定は厚生労働省令で定められた方法に則り、①深昏睡、②瞳孔の散大と固定、③脳幹反射の消失、④平坦脳波、⑤自発呼吸の停止─を6時間あけて2回確認することが求められている。この判断は十分な知識および経験を有する2人以上の医師(特定診療科の専門医)の判断の一致を持ってなされると定められ、そして脳死判定は、本人に臓器移植をする意思表明があり家族も同意している場合か、本人の臓器移植を拒む意思は確認できないが家族は臓器の摘出に同意している場合のみ行われることとされている。

したがって、臓器摘出しないならば脳死判定は行わないということになる。正式に脳死と判定されるのは、臓器移植が前提となっているのである。この点を、学生や研修医と共有すると、ピンとこないような反応をされることもある。脳死についての認識がやや曖昧なのだろう。

一般的に「脳死状態」と表現されることがあるかもしれないが、植物状態よりもさらに悪く、自発呼吸がなくなっているような状況は、厳密にいえば脳死ではなく、運用に関する指針(ガイドライン)では「脳死とされうる状態」と呼んでいる。その上で、家族に丁寧な説明を行い、移植の意思について聴取し、もし臓器提供の意思が確認できた場合には、患者本人の意思の尊重のため、そして移植を待つ人のため、脳死判定を行うのである。

医療従事者から軽率に「脳死状態」という言葉が聞かれることもあるが、少し寂しく感じる。言葉の定義を見直して頂き、これを機に、臓器移植について周囲の方と共有して頂ければありがたい。

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[脳死判定の手順][脳死とされうる状態]

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