SGLT2阻害薬は心不全例の「心血管系死亡・心不全入院」を抑制するが[Vaduganathan M, et al. 2022]、その機序は必ずしも明らかでない。チェコ・臨床実験医学研究所のMilos Mraz氏は欧州糖尿病学会(EASD)学術集会(10/2~6、於ハンブルク[独])において、SGLT2阻害薬が左室機能低下心不全(HFrEF)例の心外膜細胞に直接作用し、心保護的に働いている可能性を報告した。
心外膜脂肪は正常であれば心保護的に作用するが、過度に蓄積すると炎症惹起や線維化の促進、あるいは自律神経機能障害などを介してHFrEFを増悪させると考えられるため、心保護治療における新規標的の1つと目されている[Iacobellis G. 2022]。
Mraz氏らが解析対象としたのは、心移植・補助人工心臓植え込み予定のある、NYHA分類Ⅲ、Ⅳ度のHFrEF 52例である。
26例がSGLT2阻害薬を服用、26例は非服用だった。
「服用」群、「非服用」群とも平均年齢は約55歳、BMIは28kg/m2前後だった。
また左室駆出率はいずれもおよそ20%、BNP濃度は1200ng/L前後で群間差はなかった。
同様に血中hsCRP濃度も5.0mg/L前後で両群同等、また脂質代謝にも群間差を認めなかった。
一方、糖尿病合併例が占める割合は「服用」群は「非服用」群の2倍以上であり(69.2% vs. 30.8%)、HbA1c平均値も有意に高かった(6.9% vs. 6.1%)。
これら52例から心移植・デバイス植え込み時に心外膜脂肪を採取し、両群間で比較した。
まず遺伝子発現パターンを調べると(トランスクリプトーム解析)、「服用」群では、心外膜脂肪細胞における「脂肪酸の合成抑制・分解亢進」「炎症抑制」(JAK-STAT系、NF-κB抑制)「細胞老化とアポトーシスの抑制」が示唆された。
一方、心外膜脂肪細胞におけるSOD2発現は、「服用」「非服用」群間で差はなかった。
ただし「服用」群ではミトコンドリアサイズの拡大(機能改善)が認められた。なお皮下脂肪ではこの改善を認めなかった。
また免疫反応も「服用」群は「非服用」群に比べ、心外膜脂肪細胞におけるマクロファージとヘルパーT細胞(Th1、Th2)の発現減弱を認めた。一方、皮下脂肪ではこのような差を認めなかった。
さらに「服用」群では、心外膜脂肪細胞におけるジアシルグリセロール減少とエーテル脂質の増加を認めた。
Mraz氏によればこの変化はフェロトーシス(プログラム化細胞死の一種)抑制的に作用するという。
これらの結果から同氏は、SGLT2阻害薬は重度HFrEF例の心外膜細胞における(1)抗炎症、(2)ミトコンドリア機能改善(疑問符付き)、(3)細胞老化・細胞死の抑制―を介し、心保護的に作用している可能性があると結論していた。
Mraz氏に開示すべき利益相反はないという。また本研究は欧州連合からの資金提供を受け、チェコ科学アカデミーも支援を受けた。