わが国の観察研究は、糖尿病(DM)入院既往例死亡の3割は突然死であり、一般疫学調査の10%前後を大きく上回ると報告している[紀田ほか. 1993]。2型DM例ではこの心臓突然死(sudden cardiac arrest:SCA)リスクが、QT延長作用のある抗精神病薬や抗生剤により著明上昇している可能性が、大規模症例対象研究から示された。10月2日からドイツ・ハンブルクで開催された欧州糖尿病学会(EASD)にて、オランダ・アムステルダム自由大学医療センターのPeter P. Harms氏が報告した。
解析対象は、プライマリケア医で2型DMを加療中にSCAを来した689例と、診察時期、年齢・性別をマッチさせた非SCA 3230例である。SCA例は地域レジストリ"ARREST"から抽出、2型DM例はプライマリケア・データベースを参照してピックアップした。
平均年齢は68歳、男性が65%弱を占めた。HbA1c平均値は約6.5%だった。心血管系(CV)疾患既往例の割合は「SCA」群が「非SCA」群より多かったが(40.0 vs. 29.4%)、降圧薬服用率や脂質低下薬服用率には群間差はなかった。
これらSCA群の発生前5年間診療記録を非SCA群と比較し、心停止のリスク因子を探った(多変量解析)。
その結果、SCAと相関する因子が複数明らかになり、その中でHarms氏が注目したのは「QT延長をきたし得る薬剤」である。これらの薬剤服用により、非服用に比べてSCAリスクは「不整脈既往」と同等まで上昇していた(ハザード比[HR]:1.66、95%信頼区間[CI]:1.20-2.31)。
ただし細かく見ると、QT延長薬に伴うSCAリスクの有意上昇を認めたのは、CV疾患既往のない例のみだった。抗精神病薬に伴うHRは2.87(95%CI:1.95-4.22)、抗生剤で1.66(1.15-2.39)だった。
なお上記薬剤以外でHarms氏が強調したリスク因子は、CV疾患既往のない2型DM例における「空腹時血糖値<81mg/dL」である。「81-<114mg/dL」に比べHRは2.50(95%CI:1.15-5.44)の有意高値となっていた。
本研究には開示すべき利益相反はないとのことである。