放射線被ばくは低用量でも糖尿病発症リスクを増加させる可能性が、原子力発電所災害時作業員を対象とした観察研究の結果、明らかになった。10月2日よりドイツ・ハンブルクで開催中の欧州糖尿病学会(EASD)第59回学術集会にて、労働安全衛生総合研究所(日本)のHuan Hu氏が報告した。
解析対象となったのは2011年3月から12月にかけて東京電力福島第一原子力発電所で作業にあたった1万9812例中、観察研究の呼びかけに応じ、かつ検診データが揃っていた男性作業員5326例である(女性11例は除外)。
平均年齢は45歳前後、60%弱に脂質異常症、35%前後に高血圧、そして5.5%に糖尿病を認めた。
これら5326例のデータセットを用い、ホールボディ・カウンタ評価による放射線内部被ばく量と、その後10年間の定期検診における糖尿病発症の関係を後方視的に調べた。
「糖尿病」の定義は「糖尿病診断」ないし「空腹時血糖値≧126mg/dL、またはHbA1c≧6.5%」とした。
その結果、5年間で392例に新規糖尿病発症を認めた(7.8%)。
そこで「内部被ばく量」と「糖尿病発症リスク」の関係を以下のように検討した。
すなわち全体を「0-4」mSv(2621名)、「5-9」mSv(732名)、「10-19」mSv(823名)、「20-49」mSv(787名)、「≧50」mSv(363名)の5群に分け、「0-4」mSv群を基準とした糖尿病発症ハザード比を算出した。
それによると「10-19」mSv群のHRは1.47、「20-49」mSv群でも1.33の有意高値となっていた(95%信頼区間の数字は示されず)。
一方、最も被ばく量の多い「≧50」mSv群におけるHRは0.98だった。
この結果は、観察開始直後の3年間に糖尿病を発症した105例を除外して解析しても同様だった。
なおHR算出にあたっては、年齢やBMI、正社員/派遣の別、教育レベル、身体活動、アルコール摂取、脂質異常症、高血圧による影響を補正している。
内部被ばく「≧50」mSv群で糖尿病発症リスク増加が認められなかった理由としてHu氏は「サンプル数が少ない」点を挙げ、より長期間観察すればこの群でも発症リスクは上昇するのではないかとの見方を示した(観察は今後も継続)。
なお今回は内部被ばく増加に伴う糖尿病発症リスク上昇の機序は検討されていない。しかし甲状腺ホルモンを含め検診では70項目以上のデータを採取しているため、解析・検討は可能だという。
本研究は、厚生労働省・労災疾病臨床研究事業「放射線業務従事者の健康影響に関する疫学研究」の一環として実施された。