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【識者の眼】「人材不足と少子化に拍車をかけるわが国の構造」小倉和也

No.5184 (2023年09月02日発行) P.57

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2023-08-10

最終更新日: 2023-08-10

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2022年の就業構造基本調査1)の結果によると、産業大分類別有業者数において「医療、福祉」の就業者数が最大の伸びを見せ、900万人を超えた。分類中3位となり、1047万人の「製造業」、967万人の「卸売業・小売業」に迫る勢いである。しかしそれでも、医療介護の現場では深刻な人材不足が続いている。当院でも女性スタッフが出産・育児・介護で交互に休む状況をカバーしながら診療を維持しているが、相変わらず保育所問題や税制の障壁から、働きたくても働けない状況が足を引っ張っている。

このことは調査結果にも如実に現れている。医療・福祉従事者900万人のうち、実に671万人が女性であるが、仕事と家事のバランスを見ても、家事を主とし仕事を従とする有業男性が57.5万人しかいないのに対し、家事を主とし仕事を従とする有業女性は815万人を超えている。加えて、過去1年間に出産・育児を理由に離職し無業となった男性が1000人しかいないのに対し、女性は11万人、同じ期間に介護・看護のために離職し無業になった男性2.1万人に対し女性は6.2万人となっている。

つまるところ、家事・育児・介護など「ケア」と呼ばれる労働は、外でも女性が主に担い、その女性が働いていてもいなくても家庭でも担わされているということである。いわゆる「男性稼ぎ手モデル」2)に固執した社会制度により、女性がそのような苦境に追いやられる一方で、男性はこれを前提とした長時間労働を強いられている。それでもこの30年給与も伸びず、女性の給与はさらに低いため、男性は晩婚・非婚化し、女性はキャリアか結婚・出産の二択を迫られる。そのような状況が少子化を促進し、介護だけでなく社会全体の人材不足と停滞に拍車をかけ続けている。

このような構造を考えると、少子高齢化社会においては、介護の社会化を単独で進めることは難しいことがわかる。介護の社会化は子育ての社会化、そして性別や立場にかかわらず皆が「ケア」を共に担う「ユニバーサル・ケア」3)の推進がセットでなければ完結できない。

子育てや介護・家事を分担しながら男性も女性もキャリアを追求することもでき、子どもから高齢者まで、病や障害を抱えていても生きがいや明るい未来を描くことができる「共生社会」は、決して高すぎる理想ではなく、社会が本来めざすべき姿であろう。

【文献】

1)総務省統計局:令和4年就業構造基本調査の結果..
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/index2.html

2)岡野八代:日本を後退させているのは誰か 「男性稼ぎ手モデル」への執着. 毎日新聞政治プレミア.(2023年7月19日).
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230718/pol/00m/010/004000c

3)The Care Collective:The Care Manifesto-The Politics of Interdependence. Verso, 2020.

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[男性稼ぎ手モデル][ユニバーサル・ケア][共生社会]

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