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【識者の眼】「空の旅と子どもの健康」坂本昌彦

No.5179 (2023年07月29日発行) P.61

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2023-07-20

最終更新日: 2023-07-20

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夏休みが近づいてきました。新型コロナウイルス感染症も5類になった今、家族旅行に出かける機会も増えるかと思います。今回はその中でも飛行機の旅行についてまとめてみたいと思います。

さて、まず飛行機に搭乗できる月齢は一般的に生後8日以降です。しかしやむを得ない場合でなければ、首がすわった生後3カ月以降が望ましいとされ、外来でもそのように説明しています。また機内は特殊な環境です。通常の巡航高度1万メートルの上空では、外気は0.25気圧、気温はマイナス50度、湿度は0%になります。気圧や気温などを調整した機内環境は、気圧0.8気圧(海抜2700mに相当)、酸素濃度15%(地表は21%)、温度は22〜23度、湿度は15〜20%(砂漠の湿度20〜25%より低い)です。つまり機内は砂漠より乾燥していると言えます。このような環境でも、健康な子どもであれば体調に影響が出ることはありませんが、呼吸器疾患や心疾患のある児では低酸素環境は体への負担が大きくなります。場合によってはあらかじめ酸素吸入器の手配が必要になることがあります。

また、上昇時と下降時に気内の気圧が変化することにより、耳の痛みや、耳が詰まったような症状が出ることがあります。特に風邪やアレルギー性鼻炎で耳の中の気圧と外気圧の調整が不十分な場合に起きやすく、「航空性中耳炎」と呼称しています。乳幼児が機内で泣く原因の1つとされ、上昇時には6%、下降時には10%のお子さんが耳痛を訴えるとの報告もあります。対策としては乳児なら授乳、幼児なら飲み物を飲ませます。年長児で誤嚥のリスクがなければガムや飴も有効です。ちなみにミルクの調乳はCAさんにお手伝いをお願いすることもできます。またアレルギー性鼻炎がある場合には、搭乗前にあらかじめ点鼻薬を使うと効果的です。なお、最近はアレルギーの患者さんも増えていますが、航空会社に事前に伝えておくと、アレルギー食対応をしてくれることもあります。

機内では病気だけでなくケガにも注意が必要です。機内にはひじ掛け、テーブル、シートベルトの金具、トイレの扉、物入れなど、指を挟むリスクが高いものが数多くあります。たかがケガと考えていると大変なことになるので注意が必要です。

同様に、やけどにも要注意です。小さなお子さんやお子さんを抱いている方は、温かい飲み物は控えたほうがよいでしょう。コーヒーやスープをこぼして、やけどしてしまうケースもあるようです。飛行機は突然揺れることもありますし、子どもの動きは読めないので、大丈夫と思っても油断は禁物です。このような点に留意して、空の旅を楽しんで頂ければと思います。

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[航空性中耳炎][けが・やけど]

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