2021年、降圧治療のランダム化比較試験(RCT)メタ解析としては最も信頼度が高いBPLTTCから、Ca拮抗薬に伴う発がんリスクの有意上昇が報告されたのは記憶に新しい。しかしこの研究の観察期間中央値は4.2年であり、より長期の影響は不明である。またRCTにおける服薬アドヒアランスは実臨床と異なるため、結果をそのまま日常臨床に当てはめられるかという疑問もある。
そのような欠点を補うデータとしてイタリア・ミラノ-ビコッカ大学のMatteo Franchi氏は、6月23日からミラノ(イタリア)で開催された欧州高血圧学会(ESH)第32回学術集会において、10年以上の観察期間を持つ実臨床観察研究データから、降圧薬別の発がんリスクを報告した。注目を集めたのは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)だった。
Franchi氏が解析対象としたのは、ロンバルディア州の公的医療データベースである。40歳以上85歳未満で降圧薬を開始した全例をピックアップし、その後の発がん状況を調べた。
その結果、33万9842例の降圧薬新規開始例が見つかった。
平均年齢は59歳、男女はほぼ半々だった。
最も頻用されていた降圧薬はACE阻害薬(57%)で、次いでARB(42%)、チアジド系利尿薬(38%)、Ca拮抗薬(37%)、β遮断薬(35%)、ループ利尿薬(12%)、MRA(4%)、チアジド類似利尿薬(3%)―という順番だった(重複あり)。
中央値10.2年の観察期間中、3万6778例(10.8%)ががんと診断された。
そこで各降圧薬服用に伴う発がんリスクを、「年齢」「性別」と「Multisource Comorbidity Score」で補正後検討すると、MRAでのみ有意な発がんリスク増加を認めた(ハザード比[HR]:1.58、95%信頼区間[CI]:1.48-1.70)。ただし服用例数が少ない(1万5000例弱)ため、解釈には注意が必要とFranchi氏は述べた。またMRAは服用期間が長くなるほど発がんリスクも高くなる傾向を認めた。
なおCa拮抗薬(HR:1.03)とループ利尿薬(同1.05)もリスクの有意上昇こそ認めないものの、95%CI下限は1.00だった。
またチアジド類似利尿薬とループ利尿薬もMRA同様、服用期間依存性の発がんリスク上昇傾向を認めた。
Ca拮抗薬も上記3剤ほどではないが、服用期間長期化に伴う軽微な発がんリスク上昇が見られた。
ACE阻害薬とARB、チアジド系利尿薬には、そのような傾向は認めなかった。
本研究の利益相反は開示されなかった。