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検査結果がその場で分かるAI搭載インフル検査機器で早期診断・早期治療を実現[クリニックアップグレード計画 〈医療機器編〉(39)]

No.5170 (2023年05月27日発行) P.14

登録日: 2023-05-30

最終更新日: 2023-06-21

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デジタル技術の著しい進化が、医療現場を変えようとしている。プログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD)と呼ばれる新たなカテゴリーが登場。AIを使った診断支援ソフトウエアや治療用アプリが保険適用されている。連載第39回は、2022年12月に保険適用となったAI搭載の咽頭内視鏡システムを用いたインフルエンザ検査を実施し、早期診断・早期治療に取り組むクリニックの事例を紹介する。

SaMDは、疾病の診断・治療・予防に寄与するなど、医療機器としての目的性を有し、かつ、意図した通りに機能しない場合には、患者(または使用者)の生命および健康に影響を与えるおそれがあるプログラム(ソフトウエア機能)と定義される。厚生労働省は日本国内のプログラム医療機器の迅速な承認を進めており、今後さまざまなSaMDが承認、保険適用されていくとみられる。

2022年12月には、AI搭載の咽頭内視鏡システム「nodoca」(https://nodoca.aillis.jp/)を用いたインフルエンザ感染症診断が保険適用。発熱や上気道症状のある患者の診療にnodocaを活用しているのが、埼玉県さいたま市にある「ハレノテラスすこやか内科クリニック」だ。


大学病院と患者の負担軽減を目指し開業

同院の渡邉健院長は、鹿児島大医学部を卒業後、東京医科歯科大や同大関連病院などでキャリアを積み、日本内科学会総合内科専門医、日本血液学会専門医・指導医の資格を取得。大学病院の勤務医時代、薬剤などの開発で血液疾患の治療成績が上がり、外来患者が増加したことで、大学病院が本来果たすべき教育や研究といった分野に手が回らなくなっている現状を目の当たりにし、危機感を抱いていたという。そこで、大学病院の外来業務と患者の通院の負担軽減を目指し、一般内科とともに血液内科領域の専門的な診療を行うクリニックとして、2019年5月に開業した。

開業翌年には新型コロナウイルスが感染拡大。別動線の確保など困難な部分はあったが、発熱を伴うコロナ以外の本来見逃してはいけない疾患が放置されることがないようにするため、渡邉さんは発熱外来を設置し、感染拡大当初から患者を受け入れてきた。

「新型コロナウイルスを見つけることは大切ですが、クリニックの外来本来の役目は患者さんの不調の原因を見つけることです。熱の原因が特定できて初めて治療が開始できます。例えば、地域の医療機関を受診したがPCR検査だけで診察をしてもらえず、1カ月発熱が続いたので、私がかつて書いたブログを頼りに当院を受診した患者さんが壊死性リンパ節炎だった例が2件ありました。通常の外来の中でコロナ診療を行う重要性を実感した事例でした」(渡邉さん)

50万枚以上の咽頭画像を基に開発

新型コロナウイルスの感染拡大がひと段落し、昨年暮れからインフルエンザの感染者数が増加すると、検査の侵襲性が課題と感じるようになったという。

「PCR検査は唾液で可能になるなど格段に侵襲性が低くなりました。インフルエンザの検査も咽頭拭い液タイプの試薬を使用していましたが、患者さんは辛そうでした。患者さんの負担が少なくて済み、感度・特異度も担保されているnodocaの存在を知り、保険適用後、すぐに導入を決めました」

nodocaは医師である沖山翔氏が代表を務めるアイリス株式会社が開発・発売するAI搭載の医療機器。延べ100以上の医療機関、1万人以上の患者による協力で収集された50万枚以上の咽頭画像データベースを基に開発された。

数秒〜十数秒で判定結果が分かる

nodocaの使用フローはの通り。専用の咽頭カメラを患者の口腔内に挿入、画像を撮影する。画像と問診情報をAIが解析し、インフルエンザの診断補助に用いることができる画期的なデバイスだ。治験時のNRSによる痛みの評価が平均0.8と低く、患者に優しい検査機器と言える。診療報酬は既存のインフルエンザ検査と同じく305点を算定できる。

もう1つの特徴は迅速性。判定開始から遅くとも十数秒で判定結果が得られるため、患者が待合室に戻る必要はなく、その場で検査結果を伝えることができる。国内11施設での治験の臨床成績は、感度76.0%、特異度88.1%(点推定値)の精度が確認されている。同院ではnodocaの特徴を生かして、オリジナルのフローで鑑別診断を行っている。

「発熱か上気道症状のある場合、陰圧室で問診を取ります。その後、診察して検査した方がいい場合は、新型コロナウイルスの検査機器『ID NOW』の検査を行います。結果が出るまでの約15分間でnodocaで検査を行い、陽性であれば総合的にインフルエンザと診断し、その場でウイルスの増殖を抑える抗インフルエンザ薬を吸入してもらいます。その後ID NOWの結果を踏まえ、新型コロナウイルスの診断をつける流れです。十数秒で検査結果が出るnodocaを活用することで、感染症に重要な早期診断・早期治療を実現できるようになりました」

見逃しがちだった疾患を丁寧に診ていく

5月8日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行した。移行後の日常診療への取り組みについて渡邉さんはこう語る。

「これから意識しなくてはいけないのは、コロナ禍の3年間で見逃されがちになっていた疾患を丁寧に診ていくことです。学会の報告でがんの死亡率が上昇したというデータもあります。基本に立ち返り、健診や予防接種など一般的な医療を地域の患者さんにしっかりと提供していかなければなりません。地域医療が通常運転に戻る中で、次のパンデミックに備え、地域のクリニックでも早期診断が行える検査機器を充実させていくことはとても重要だと考えています」

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