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【識者の眼】「診療報酬が語る今後の医療従事者の方向性」杉村和朗

No.5171 (2023年06月03日発行) P.61

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-05-18

最終更新日: 2023-05-18

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診療行動を誘導する場合、国は診療報酬を利用する。看護師については、7対1看護をはじめその配置が診療報酬に大きな影響を与えるため、病院側は早めの対応を取ってきた。急性期病院に看護師を十分配置し、診療報酬を手厚くする方針は正しかったが、病院側が高い診療報酬をめざしたがために、意図に反して急性期病院が増えすぎてしまうという結果を招いた。公立病院においても厳しい経営状況が続いている上に、物価高騰や働き方改革への対応を行っていく必要があるので、診療報酬改定を十分読み込んで診療報酬の請求漏れがいように対応することは勿論のこと、病院管理者をはじめ病院幹部は、国の意思を早めに読み解いておくことが重要である。

2022年の改定では、薬剤師について、病棟薬剤業務実施加算を設定することによって、調剤業務からチーム医療の一員として患者との距離が近くなる方向に誘導した。病院側は患者に様々な利点があるため、その方向に舵を切ろうとしているが、調剤薬局等も薬剤師確保を強力に進めており、病院薬剤師が十分に確保できない病院が多くなっている。この状況に対して薬学実習生を受け入れたときに病院薬剤師業務の魅力を伝えたり、薬学部の学生講義で将来性について話をしてもらったりして、確保努力をしているところである。

管理栄養士に対する加算も目を引くところであった。様々な状況において早期栄養介入を行うことによって、患者自身の治す力を引き出そうとする方向性を示している。臨床検査技師も同じく、検体検査から外来業務、病棟業務への重点化が図られている。もちろんこれらは医師の働き方改革への対応を念頭に、タスクシフト、タスクシェアに役立てる事も一因であるが、各職種における業務範囲の拡大によって能力向上を図り、機械に任せることができるところは機械に任せ、医療スタッフでなければできない仕事に集中させ、医療の効率化をめざしていることによる。

AI(Artificial Intelligence)を含めて、機械を上手く利用させようという強い意思を感じるのが、画像診断においてAI利用に加算点数をつけたことである。診療報酬にAIという文言が出てきたことは、ICT(Information and Communication Technology)の活用を具体的に後押ししようとする今後の方向性を強く感じさせる。看護業務のかなりの部分がICTの活用で代替でき、それによって本来業務に費やす時間が増加するという報告は多い。これらに加算点数がつくことによって、機器導入に弾みがつき、働き方改革や医療安全に大きなインパクトが与えられる。また輸入超過となっている日本の医療機器の開発にもつながるはずである。次回の改定では、幅広い領域でICTの活用についての加算点数がつくことを強く期待している。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[働き方改革][ICTの活用]

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