幼虫移行症とは,人体内で成虫になれない寄生虫(原虫を除く)による感染症のことで,かつてはトキソカラ症(イヌ回虫症またはネコ回虫症)と同義だったが,近年はもっと広い範囲の寄生虫症も含める。わが国でトキソカラ以外の原因寄生虫には,ブタ回虫,アニサキス,顎口虫,旋尾線虫タイプX,動物由来の鉤虫類,マンソン孤虫などがある。国内では,獣やトリの筋肉やレバー,爬虫類,淡水産魚介類,海産魚介類などを刺身などの加熱不十分な調理法で摂取して感染することが多い。
症状は寄生虫の存在部位に依存する。肺,肝臓が標的となることが多く,皮膚がこれに続く。中枢神経や眼は,頻度は低いが症状が出やすい。好酸球性肺炎,好酸球増多を伴う肝異常陰影,皮膚爬行疹,移動性皮下腫瘤,脊髄炎,ぶどう膜炎などとして現れる。
寄生虫が表皮内や皮下など到達可能な部位にいるときには,外科的に摘出して虫体を確認することが最も確実な診断・治療法である。深部臓器,中枢神経寄生などでは生検によって虫体を得ることは現実的ではなく,抗体検査が唯一の有効な検査法になる。したがって,上述のような症状・症候に遭遇したときに,幼虫移行症が鑑別に上がるかどうかが最も重要な診断のポイントである。
①線虫類に対する第一選択薬はアルベンダゾール。アルベンダゾールに反応しないとき,アルベンダゾールが肝機能障害により使えないときにはイベルメクチン。②吸虫類(通常は幼虫移行症の原因にはならないが,肺吸虫が皮下に移動性腫瘤を形成することがある)にはプラジカンテル。③マンソン孤虫には有効な薬剤がないが,高用量のプラジカンテルを試みる。
駆虫薬は種類が少なく次善の手は限られている。人体有鉤囊虫症とエキノコックス症は本稿では扱わない。
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