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[緊急寄稿]N95マスクはSARS-CoV-2オミクロン株流行抑制に有効─米国はN95マスクを全国民に無料配布(菅谷憲夫)

No.5102 (2022年02月05日発行) P.34

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院小児科・感染制御,慶應義塾大学医学部客員教授)

登録日: 2022-01-25

最終更新日: 2022-01-25

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米国政府は,4億枚のN95マスクを無料で全国民に配布することを決定した。政府筋は,これを“largest deployment of personal protective equipment in U.S. history”(米国史上最大の個人用保護具の配備)と述べた(New York Times紙2022年1月19日付)1)

N95マスクをできるだけ多くの国民が着用して(universal masking),新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株流行を抑えようという,米国政府の画期的な試みである。

これまでとは異なる,オミクロン株の特徴

オミクロン株には,今までのSARS-CoV-2株,特にデルタ株とは,いくつかの異なる点がある。

第一に,従来株やデルタ株との大きな違いとして,オミクロン株は麻疹なみの感染力があると考えられるという点である。オミクロン株の感染力はきわめて強く,デルタ株の基本再生産数は“水痘なみの8”とされていたが2),オミクロン株ではその数倍はあるとされるので,麻疹に近いと考えられる(麻疹では,免疫がない集団に発症者が1人いたとすると,12〜14人に感染するとされている)3)。麻疹と同等の感染力を持つ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がわが国で流行している現状では,COVID-19ワクチンのブースター接種なしで,「いっそうの注意を」などの単なる掛け声だけで対処するのは,科学的ではない。麻疹ではマスクによる予防効果は低いことが知られているが3),全国での記録的なオミクロン株流行の勢いを見れば,日本人のサージカルマスク着用では今までのような感染防止効果は期待できないと思われる。

第二に,オミクロン株患者では,入院リスクは低いという点である。英国からの報告では,救急外来受診または入院のリスクは,オミクロン株患者ではデルタ株患者のおよそ半分と報告された(ハザード比:0.53,95%信頼区間:0.50〜0.57)4)。他の報告でもオミクロン株患者は症状が軽いとし,わが国のマスコミも軽症と報道しているが,対象患者の大部分が若年成人層であることには注意が必要である。なお,重症化が最も懸念されている高齢者でも軽症かどうかは,さらに検討が必要である。

わが国のブースター接種率は,先進国で最低レベル

欧米諸国は経済への悪影響を考慮してロックダウンを避け,90%近い入院防止効果が期待できるCOVID-19ワクチンのブースター接種に全力を投じている。一方,わが国では,ブースター接種が大幅に遅れ,1月19日時点で全人口のわずか1.4%にすぎず,先進国の中では最低レベルである。英国のひとつであるイングランドでは1月20日時点で,12歳以上の人口の83%がCOVID-19ワクチンの2回接種を受けており,さらに63%がブースター接種を終えた5)。米国では1月17日時点で,COVID-19ワクチンの2回接種を受けた人の38.1%がブースター接種を既に終了した6)。わが国でのブースター接種の遅れは,COVID-19対策において大失策である。ブースター接種がほとんど実施されていないわが国で,欧米をまねて経済重視路線をとれば,オミクロン株の流行はさらに拡大すると思われる。

多くの日本国民のブースター接種は3月以降になると考えられるが,現時点では,2回接種を受けた日本国民での発病防止効果は10%以下であり,ブレークスルー感染は避けられない状況である7)。英国の報告によれば,ファイザー社ワクチンなどを2回接種した成人では,51%の入院防止効果があるとされるのは安心材料ではあるが4),高齢者などのハイリスク群でもそこまでの効果があるかは不明である。

ブースター接種が遅れ,自然感染(全国民の1.6%前後,1月19日時点)による免疫もほとんどないわが国で,強い感染力を持つオミクロン株が出現したことは,深刻な事態である。

わが国は今どのような対策をとるべきか

筆者は,以下の対策を早急にとるべきと考えている。

①本来の最重要対策は,ブースター接種の早急な実施である7)。しかし,現状では3月から4月以降になると言われている。

②12歳から17歳までの接種率を高め,さらに5歳から11歳までの接種を早急に開始することが重要となる。オミクロン株流行により,世界中で小児の入院患者が増加しているからである(小児では成人のように,デルタ株患者よりも軽症とはされていない)。しかし,実施には数カ月以上要すると思われる。

③ワクチン接種以外では,従来の,マスク,社会的距離(social distancing),手指衛生等を徹底する。わが国では今まで欧米よりもCOVID-19の被害が少なかったが,その理由のひとつとして,マスク着用の徹底が考えられてきた。しかし,オミクロン株に対しては,日本人のマスク着用(ほとんどがサージカルマスクと思われる)がはたして有効かどうかについては,甚だ疑問である。

米国ではN95マスク使用を推奨

冒頭で米国政府の取り組みを紹介したが,米国では,オミクロン株の強い感染性に対し,布マスクやサージカルマスクではなく,N95(空気中に浮遊している粒子の95%以上を捕集できる性能を持つマスク)などの高性能のマスクを使用すべきという意見が出ていた8)。なおWashington Post紙では,米国民は通常の市販マスクやサージカルマスクの使用をやめて,医療用のN95マスクを着用すべき,という記事を既に掲載していた9)。さらに米国議会では,民主党のバーニー・サンダース上院議員を中心に,すべての家庭にN95マスクを無料で配布するという法案が,1月12日に提出された。サンダース上院議員は,「急速に広がるオミクロン株に直面しているので,議会は,N95マスクの大量生産と配布を要求する必要があります。すべての人々に高品質のN95マスクを無料で提供することで,死や苦しみを防ぎ,莫大な医療費を節約することができます。N95マスクを無料で簡単にアクセスできるようにするだけで,何万人もの命を救うことができます」と述べた10)

CDCもマスクのガイダンスを改訂

米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が2020年に,最初にCOVID-19に対するマスク使用のガイダンスを出したとき,医療従事者向けの不足を懸念して,N95マスクを一般の人々には推奨しなかった。しかし今回,オミクロン株の記録的な大流行により,2022年1月14日にマスクのガイダンスを改訂した11)。N95などの高性能マスク(CDCでは“respirator”と称する)には,布製マスクやサージカルマスクよりも高いレベルの感染防御効果があることを認め,強力な保護作用が必要な,特定の状況と特定の人々には使用を考慮する,とした。

N95マスク使用が考慮される状況

CDCは,以下の状況において,N95マスクの使用を推奨した11)

①COVID-19患者のケアをする人。

②免疫不全患者,高齢者,基礎疾患のある人など,COVID-19に感染した場合に重症化するリスクが高い場合。

③多くの人と接する仕事をしている人(たとえば,バスの運転手や食料品店の従業員など)。特に,接する人々が常にマスクを着用しているわけではないとき。

④飛行機,バス,電車,またはその他の公共交通機関に乗る場合。特に,混雑した交通機関に長時間乗車する場合。

⑤social distancingをとれない場合,または屋内や屋外の公共の場で混雑している場合。

⑥COVID-19ワクチン接種がup to dateされていない人。

CDCが挙げているN95マスク使用基準は明快であり,現実的には,多くの日本人もN95マスク使用を考慮すべきであることが,理解される。特に①は,自宅療養者が激増しているわが国で,ケアする家族がサージカルマスクで接していれば,家族内感染が起きるのも当然であろう。⑥に,「ワクチン接種がup to dateされていない」場合が列記されているが,これは,ブースター接種を受けていないということを意味している。一部の医療従事者を除き,ほとんどの日本人はこれに該当する。

マスクとsocial distancing

以前からマスクの重要性は認識されていたが,最近,Proceedings of the National Academy of Sciences誌に,マスクの着用とsocial distancingについて,興味深い論文が掲載された12)。本論文の影響もあり,米国ではN95マスク着用の重要性が改めて認識された。

SARS-CoV-2パンデミックの感染予防策として,マスクを着用し,social distancingをとることは世界の共通認識であるが,実際対面した際に,感染リスクにどの程度影響を与えるかは明らかではなかった。論文では,マスク着用がsocial distancingと比較して,SARS-CoV-2感染リスク減少に,より大きな効果があることが示された。また,universal maskingにより,感染リスクが大幅に低減することが示された。

サージカルマスクの感染防御は不十分

さらに論文によると,SARS-CoV-2感染患者と,感染していない人〔本論文では“susceptible”(感受性者)と称している〕が,両者ともにマスクをしないで3メートルの距離をおいて会話すると,わずか数分でSARS-CoV-2への感染が成立することが示された。また,感受性者が1.5メートルの距離をとり,サージカルマスクを着用していると,感染成立までに30分を要した。さらに,感受性者がFFP2マスク(N95に相当)を着用していると,感染リスクは1時間後でも20%にとどまった。なお,SARS-CoV-2感染患者と感受性者の両者がサージカルマスクをしていると,感染リスクは1時間後に30%である。しかし,両者がFFP2マスクを着用していると,感染リスクは1時間後でも0.4%となる。つまり,サージカルマスクに比べてN95マスクでは,感染リスクを75分の1(30% vs. 0.4%)に低下させる効果があった12)

わが国では,室内における仕事の場では,全員が主にサージカルマスクを着用している。しかし,たとえ1.5メートルの距離をおいても,SARS-CoV-2感染患者と感受性者が1時間会話をすると,30%と高い感染リスクがある。実際には,換気状態,湿度,ワクチン接種の有無,年齢などにより,数値は変動すると思われるが,全員が仕事の場でN95マスクを着用すれば,感染が大幅に減少することは間違いない。前述のようにサージカルマスクをしていても相当高い感染リスクがあることは示されているが,このデータはオミクロン株流行以前の解析であるので,現状はさらに厳しいものと思われる。

米国産業衛生専門家会議(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:ACGIH)も同様の報告をしているが13),それによると,SARS-CoV-2感染者から非感染者への感染成立に要する時間は,両者がマスクをしていないと15分,両者がサージカルマスクをしていると1時間,両者がN95マスクをしていると25時間とされた。

おわりに

米国政府は,オミクロン株による激しい流行が続くため,4億枚のN95マスクを無料で全国民に配布することを決定した。米国ではバイオテロ対策もあるため,N95マスクは低コストで大量の国内生産が可能であり,不足すればすぐに補充できる体制をとっている。

CDCは改訂されたガイドラインで,N95などの高性能マスクは,布マスクやサージカルマスクよりも感染予防効果が優れていることを認め,一般国民も状況によってはN95マスクを選択できるとした。COVID-19出現当初に,CDCが“一般の人は,発病しても咳が出ていなければ,マスクは必要がない”としていたことを考えると,今昔の感がある。

欧米に比べて,わが国のCOVID-19の被害が格段に少ないことは「ファクターX」とも言われてきたが,最近のマスクの有効性に関する論文を読むと,人種差とか特定の対策などではなく,日本人が忠実に守ってきたマスク着用の習慣による可能性が高い。しかし,オミクロン株の流行がわが国で急速に拡大していることから,サージカルマスク着用もほとんど無力であることが証明された。ブースター接種が遅れているわが国では,ワクチンによる発病防止効果がほとんど消失していることも,流行拡大の大きな原因である。

結論としてマスクの選択が重要であり,オミクロン株には,サージカルマスクではなく,N95マスクか,それと同等のKN95,KF94マスクを選択すべきである。今こそ,国内各地に備蓄したN95マスクを放出して,医療関係者はもとより,警察,消防関係者などのエッセンシャルワーカーにも使用を勧奨すべきときである。少なくとも,医療従事者は発熱患者診察時以外にも,院内ではN95マスク,あるいは前述の同等品を常時着用し,感染を防止し,医療崩壊を防ぐべきである。

【文献】

1)The New York Times:Covid News: U.S. Health Worker Mandate Deadlines Loom as Omicron Overwhelms Hospitals(Jan. 19, 2022)

   [https://www.nytimes.com/live/2022/01/19/world/omicron-covid-vaccine-tests#covid-biden-free-masks]

2)菅谷憲夫:医事新報. 2021;5078:28-30.

   [https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17780]

3)国立感染症研究所感染症情報センター:麻疹(ましん,はしか)について(2010年7月7日).

   http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA♯q1-3]

4)UK Health Security Agency:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England, Technical briefing;Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01(B.1.1.529)(Dec. 31, 2021).

     [https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1045619/Technical-Briefing-31-Dec-2021-Omicron_severity_update.pdf]

5)BBC:Covid vaccine;How many people are vaccinated in the UK?(Jan. 20, 2022).

   [https://www.bbc.com/news/health-55274833?piano-modal]

6)CDC:COVID-19 Vaccinations in the United States(2022).

   [https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/♯vaccinations_vacc-total-admin-rate-total]

7)菅谷憲夫:医事新報. 2022;5100:28-31.

   [https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=18869]

8)Michaels D, et al:JAMA. 2022;327(3):213-4.

9)Washington Post:CDC weighs recommending better masks against omicron variant(Jan. 10, 2022).

    [https://www.washingtonpost.com/health/2022/01/10/cdc-weighs-n95-kn95-masks-guidance-omicron/]

10)Bernie Sanders:Sanders Reintroduces Legislation to Give Every American Lifesaving N95 Masks(Jan. 12, 2022).

     [https://www.sanders.senate.gov/press-releases/news-sanders-reintroduces-legislation-to-give-every-american-lifesaving-n95-masks/]

11)CDC:Types of Masks and Respirators(Jan. 14, 2022).

     [https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/types-of-masks.html]

12)Bagheri G, et al:Proc Natl Acad Sci USA. 2021;118(49):e2110117118.

13)ACGIH:COVID-19;Workers Need Respirators(2021).

     [https://www.acgih.org/covid-19-fact-sheet-worker-resp/]

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