株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

標準化された薬剤と標準化されていない薬剤の比較はFairと言えるか? [J-CLEAR通信(67)]

No.4818 (2016年08月27日発行) P.34

後藤 信哉 (東海大学医学部内科学系循環器内科教授/J-CLEAR副理事長)

登録日: 2016-05-16

最終更新日: 2017-01-19

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • ┃EBMの論理とランダム化比較試験の変遷

    米国のオバマ大統領のPrecision Medicine Initiativeを読むと,現在の根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の論理を理解できる。すなわち,「平均的な症例」に対する「標準治療」の転換をめざして多くのランダム化比較試験が施行され,過去に「標準治療」が確立されていた領域では,ランダム化比較試験の結果に基づいて「標準治療」が転換された。過去に「標準治療」が確立されていなかった領域では,プラセボとの比較試験により「標準治療」が樹立された。

    過去に「標準治療」が完全に確立されていた領域では,過去の「標準治療」と新薬のランダム化比較試験の差異のコンセプトは比較的容易に理解できる。しかし,過去に「標準治療」が完全に確立されていなかった領域で,無理矢理設定された「標準治療」と新薬のランダム化比較試験の解釈は困難である。

    ┃ワルファリンと新規経口抗凝固薬の 比較試験の問題点①

    「脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動」における経口抗トロンビン薬,抗Xa薬の臨床開発試験には多くの問題があった。試験の目的を,新薬承認のための科学的根拠の樹立と割り切ってしまえば,それなりに価値のある試験であっただろう。しかし,EBMの時代において,この試験がその後の「標準治療」の転換に役立つものであったか否かには議論がある。

    まず,いわゆる経口抗トロンビン薬,抗Xa薬の開発前に「脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動」の「標準治療」は確立されていたと言えるだろうか。これは,「標準治療」の定義にもよる。医師は,ばらつきの多い個々の患者の予後改善に最善を尽くすが,その「最善」の方法を遺伝子の差異や個人が曝露されたリスク因子などにより,定量的かつ構成論的に予測する科学的方法は確立されていない。

    しかし,医学部を卒業したばかりの医師よりは臨床経験20年の医師のほうが正しい判断をすると感じるので,臨床経験を蓄積した医師の判断はそれなりの真実を含んでいると想定される。そうした医師達が「脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動」において実際に施行していた抗血栓療法を調査すると,半数程度がワルファリン,3割程度がアスピリンを使用し,1~2割が抗血栓療法を施行していないというのが実態であった。つまり,文章としてまとめられた「診療ガイドライン」はあったが,臨床医の視点から見れば,「脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動」に対する「標準治療」は確立されていなかったも同然と言える。

    残り2,862文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    公立小浜温泉病院

    勤務形態: 常勤
    募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
    勤務地: 長崎県雲仙市

    公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
    現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
    2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
    6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

    当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
    2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
    又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

    ●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
    今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top