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【識者の眼】「児童精神科における社会的入院」本田秀夫

No.5074 (2021年07月24日発行) P.58

本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)

登録日: 2021-06-29

最終更新日: 2021-06-29

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社会的入院は精神科医療や高齢者医療で長く問題となってきた。近年では小児科領域でも、身体的虐待を受けた子どもが傷などの治療を終えても家庭に戻せず、入院を継続せざるを得ないことがあると指摘されている(石崎優子,他:医事新報.2016:4826;18-20.)。

児童精神科でも、社会的入院を余儀なくされることがある。15歳以下の子どもで精神科の入院治療の対象となるのは、家庭や学校生活における対人関係がうまくいかないことに端を発した身体や行動・情緒の問題であることが多い。家庭が本人にとって安心できる居場所になっていないと、心身の症状が改善してもすぐに家庭に戻すことが難しい。保護者が子どもを引き取ることに抵抗を示すこともあれば、子ども本人が家に戻ることに拒否的な態度を示すこともある。

わが国では、様々な事情で家族と暮らすことのできない子どもを対象として児童養護施設が設置されている。さらに、より家庭に近い形態の里親やファミリーホームを増やしていくことを厚生労働省では検討している。また、心身に課題があり心理治療を必要とする子どもを入所生活の中で治療する児童心理治療施設が全国に53施設設置されている(2021年現在)。これらの施設等は、児童相談所によって措置される。虐待事例の増加等に伴い、このような児童福祉施設等は需要に供給が追いついていないのが現状である。

本来ならば、入院治療で心身の状態が安定した時点で家庭に戻せない場合、上記の児童福祉施設等にスムーズに移行したいところである。しかし、受け入れ先が見つからないことなどを理由に児童相談所の措置が得られず、入院を継続せざるを得ないことがある。まさに社会的入院である。

医療の立場としては、福祉の補完としてやむを得ず病院で一時保護しているとみなされれば、多少は後ろめたく思わずにすむ。厚生労働省では、必要に応じて児童相談所が医療機関に一時保護委託して精神科治療を行うことを認めている。しかし、すべての自治体の児童相談所がこれを行っているわけではない。たとえば筆者が勤務する長野県では、精神科入院中の子どもに一時保護委託はしないというのが児童相談所の方針である。このような地域格差はあるべきではないと思う。

本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)[子どもの精神科医療]

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