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【識者の眼】「児童青年精神科診療の実態─慢性的な医師不足、抜本的改善が喫緊の課題」本田秀夫

No.5056 (2021年03月20日発行) P.63

本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)

登録日: 2021-03-03

最終更新日: 2021-03-03

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児童青年精神科の診療では、発達障害、心理的ストレスやトラウマによる精神的変調、成人期に発症する精神疾患の早期発症などを扱う。心の発達に関する専門知識を背景とした縦断的な視点に立った診療技術だけでなく、母子保健・教育・福祉などの関連領域と緊密なネットワークを築き保てるコミュニケーション力が要求される。

発達障害があり、不登校となっている小学生の診察を例にとってみる。初診時の主訴は不登校であることが多いが、加えて生活が昼夜逆転しているケースや親に暴力をふるうケースなどもある。診察では問診でこれらの問題が出現した経緯、家庭や学校生活の状況、対人関係、生育歴・発達歴・既往歴などを把握する。子ども本人にも問診するが、小学生の場合は状況を自分で説明できないばかりか、そもそも本人が自ら受診したいと思っていない場合も多く、簡単には答えてくれない。少し一緒に遊びながら気持ちがほぐれるのを待って、改めて問診することもある。さらに本人と保護者との会話や態度を見ながら家族関係を評価する。これらの情報をもとに状況を分析し、診断と治療・支援の方針を固めていく。大学病院では学生の陪席実習や研修医、専攻医の予診も行うため、診察の全工程に2時間はかかる。

定期的な再診では、子どもの状態を把握し、それを保護者と共有しながら接し方に関して助言する。可能な限り学校の担任に診察に同席してもらい、対応策について話し合う。子ども本人が何らかの情緒的な問題を示す場合には薬物治療を行うこともあるが、それは半数以下である。継続的な再診が年単位で必要となることが多い。

筆者が勤務する大学病院の予約枠は、初診が2時間、再診が20〜30分である。一定の質で診療を行うには、これ以上短くできない。担当患者は増加の一途をたどり、初診の申し込みから受診まで1年以上待っていただいている。

児童青年精神科医療が必要と思われる子どもは、潜在的には子ども全体の1割以上を占めると推測される。しかし、医師の絶対数が不足している状態が慢性的に続いている。この事態を抜本的に改善するための方策を考えなければならない。これが喫緊の課題であるという認識を全国の医療関係者に共有していただきたいと願う次第である。

本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)[こころの発達]

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