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【識者の眼】「災害とICT」土屋淳郎

No.5055 (2021年03月13日発行) P.60

土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)

登録日: 2021-03-03

最終更新日: 2021-03-03

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東日本大震災から10年が経った。福島県の病院で被災した私は、近くにある体育館に避難してきた人たちの病歴も内服薬も分からず途方に暮れた。今も仮設住宅への訪問診療をしており、震災は過去のものではないと思っていたら、2月13日に震度6強の余震である。友人医師からは倒れた石灯篭の笠が刺さった愛車の写真が送られてきたが、車の中にいたら命の保証がなかったと思うと、やはり大震災の恐ろしさは忘れられるものではない。

一方で東日本大震災を契機に医療におけるICTの利用は大きく進んだと言われている。例えば以前なら患者データは外部に出してはいけないとされ、ほとんどが院内設置型のサーバーを用いていたが、今では非常時に備えてクラウド型へ移行する医療機関が多くなり、さらにシステム連携を強化することで他院での検査内容や処方内容が分かるようになってきている。まだ十分とはいかないが、災害時に少なくともあの時のように病歴も内服薬も分からないという事態が起こることは少ないだろう。

また、被災直後に情報共有システムを用いて地域医療を支えていたことも一つの契機となり、今では在宅医療における多職種連携システムの利用は一般的になってきた。私が震災後に利用開始した多職種連携システムは今や13万人が利用するようになり、鬼怒川の氾濫や、熊本地震の際の安否確認や情報共有に有用であったと報告されている。そして通信や電力のインフラは比較的災害に強いので、地域における災害対策として普段から使っている多職種連携システムを災害時にも利用すると良いと言われるようになった。

先日の地震直後、福島県の病院の訪問看護師から多職種連携システムに安否確認の書き込みがあった。聞けば看護師が自主的に担当患者の安否確認を行い、状況報告していたのだという。患者の一人は額を怪我して病院で縫合したとのことだが、適切な行動があったからこそ速やかな対応ができたのだと、この10年で意識を高め実際に行動した人たちに敬服させられる。病院にこのシステムを導入した冒頭の友人医師も、愛車の修理には時間がかかるが、患者の怪我には速やかに対応できたことに安堵していることだろう。

医療におけるICTの利用は、大震災のような大きな出来事に直面し今までのやり方を変えなくてはいけないと感じたときに、大きな転換期を迎える。これも医療DXと考えるが、あれから10年経った現在のコロナ禍でも、大きな転換期が訪れることは間違いない。

土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[東日本大震災]

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