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難治性胸水の診断は?

No.5050 (2021年02月06日発行) P.60

八板謙一郎 (千鳥橋病院感染症内科部長)

登録日: 2021-02-09

最終更新日: 2021-02-03

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右胸水が増加しており,血液透析を受けている71歳,男性。
[既往歴]
①43歳より糖尿病でインスリン治療
②X年5月,肺炎を併発し,慢性腎不全で血液透析を開始。同年10月,肺炎で入院
③X+2年,頻脈発作(心房細動と発作性上室性頻拍)に対し,アブレーションを施行し,その後は洞調律
④数年前から腰・下肢痛を訴えている
[現病歴・経過]
X+4年11月19日,腰・下肢痛で歩行困難となり入院(12月4日のCRP 24.14mg/dL,WBC 1万1400/μL)。12月5日,他院で腰椎MRIを施行し,X+1年時のMRIと比較し著変なく,化膿性脊椎炎は否定的とのこと。12月27日のCRP 21.51 mg/dL,WBC 7400/μLで,整形外科医に診察,化膿性脊椎炎の診断を受ける。28日より抗菌薬の投与を開始。ほとんど発熱はなく,静脈血培養,T-SPOT陰性。使用した抗菌薬は,メロペネム,バンコマイシン,セファゾリン,レボフロキサシン(クラビット®),アモキシシリン(オーグメンチン®),ペンタゾシン(ゾシン®),ミノサイクリン,アンピシリン・スルバクタム(ユナシン®-S)などで,CRPを指標に一時的に中断した時期はあったが,5月下旬まで使用。CRPはX+5年1月28日に0.89mg/dLまで低下したが,2月には再び上昇し5月には最高10.42mg/dLまで上昇。
なお,X+5年1月頃から右胸水少量を認め,徐々に増加し,5月23日に右胸穿刺を施行。胸水は黄褐色の浸出液で異型細胞はなく,胸水アデノシンアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)は18.6U/L。一般細菌,結核菌は検出されなかった。
化膿性脊椎炎を精査するために他の病院に転院し,整形外科でMRIなどの検査を施行。腰椎MRIの結果はL4/5に椎間板の輝度の変化はあるが,上下椎体の破壊はなく,アクティブな印象は受けないとの返事。
また,5月31日に同院の呼吸器外科で胸腔ドレナージを行い,6月4日にドレーン抜去。胸水ドレナージ後も肺の拡張は不良で,死腔が残存しているとのこと。胸水培養では細菌は検出されなかった(右肺炎随伴性胸水の疑い)。
6月19日,再び当院に入院。腰・右下肢痛は最もひどかったときよりは改善し,トイレまでは車いすを押して歩けるまでに回復。ただし右胸水は増加傾向。
(1)右胸水は随伴性胸水だろうと考えていますが,ほかに鑑別すべき原因があればご教示下さい(経時的な変化をみるため,1年前から胸部X線を5枚撮りました)。
(2)ほとんどの抗菌薬を投与しています。難治性胸水の印象を受けますが,どのように治療を進めればよいでしょうか。
(秋田県 F)


【回答】

 【透析症例ということを考えれば結核以外にも尿毒症性胸膜炎の可能性を検討してよいのでは】

診断のためには胸膜生検も検討が必要と考えます。

最初に症例をまとめると,「糖尿病・慢性腎不全(血液透析)・カテーテルアブレーション後・長年にわたる腰痛と下肢痛を基礎疾患に持つ70歳代男性の約半年続く右胸水貯留」になると思います。感染症科医の役割は,過去をさかのぼっての詳細なカルテレビュー(検査結果や画像などを含む),そして本人の診察を行い,最適解を導き出すことです。今回は実際の診察ができませんのでご質問から得られた情報のみをもとに述べていきます。まず議論をシンプルにするために記載しておきますと,MRIは化膿性椎体炎の診断において早期発見においても感度はCTより高い1)です。フォローのMRIでも椎体炎らしい所見がないのであれば椎体炎は考えにくいかと思います。

滲出性胸水の原因としては,ご指摘の肺炎随伴性胸水・膿胸,結核をはじめ,悪性腫瘍,胸膜中皮腫,肺塞栓,心筋梗塞後,膠原病関連,膵炎,薬剤性,冠動脈バイパス術後,乳び胸,食道穿孔,アスベスト関連,肺吸虫,卵巣過剰刺激症候群,黄色爪症候群,関節リウマチ,自己免疫疾患,横隔膜下・肝・脾膿瘍,尿毒症,放射線治療などがあります2)3)。今回は透析症例ということを考えれば,結核以外にも尿毒症性胸膜炎4)の可能性は検討してよいのではないでしょうか。その臨床的特徴,胸腔鏡所見,病理所見の詳細については文献4)に譲ります。長期透析を受けている入院症例での胸水を検討した研究5)を見ると,滲出性胸水症例の中で結核とともに尿毒症性胸膜炎の診断を見ることができます。また逆に原因不明のままのものもあります。

今回のように細胞診や培養検査でまったく診断の糸口がつかめない場合は,胸膜生検の適応3)です。呼吸器外科に一度紹介し胸水ドレナージしたとのことですが,もし生検していないのであれば再度の紹介をご検討頂ければと思います。難治性胸水の治療法についてもご質問頂いていますが,慢性経過ですし,まずは診断のほうに注力されるのがよいと思います。

【文献】

1) Zimmerli W:N Engl J Med. 2010;362(11):1022-9.

2) Froudarakis ME:Respiration. 2008;75(1):4-13.

3) McGrath EE, et al:Am J Crit Care. 2011;20(2): 119-27.

4) 梅澤佳乃子, 他:気管支学. 2019;41(3):233-8.

5) Bakirci T, et al:Transplant Proc. 2007;39(4): 889-91.

【回答者】

八板謙一郎 千鳥橋病院感染症内科部長

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