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【識者の眼】「ECMOの治療成績向上に期待」今 明秀

No.5052 (2021年02月20日発行) P.52

今 明秀 (八戸市立市民病院院長)

登録日: 2021-01-20

最終更新日: 2021-01-20

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最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎に対するエクモ治療という言葉を報道でよく耳にします。数年前までは、集中治療や救急医学で使っていたエクモという難解な医学用語を、国民が口にするようになりました。

エクモ(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)とは、急性心筋梗塞、急性心筋炎などの循環不全状態または心停止状態、肺炎、ARDSなどの重症呼吸不全にある患者に対して、呼吸と循環を補助する体外循環装置です。海外では1983年より、日本では、1990年頃より主に、循環不全状態に対して、VA-ECMO(veno-arterial ECMO)を集中治療室や救命救急センターで行ってきました。日本にはVA-ECMOという呼称は普及せず、 PCPS(percutaneous cardio pulmonary support)が普及しています。このPCPSという呼称はテルモ社のエマセブの装置を含めた総称であり、欧米では通じません。日本ではテルモ社の名称が医学用語になっていたのです。テルモが、米国クリーブランド・クリニックから依頼されて、PCPSの開発を本格的に手がけたのは1989年のことでした。開発にあたって、QUICK、COMPACT、SIMPLEの3つが重視されました。

呼吸不全に対するVV-ECMO(veno-venous ECMO)の有効性は2009年英国のCESAR trialが示しました。そこではECMOに習熟したスタッフがそろうECMOセンターに患者を集約化させることが必須であることも強調しています。現在COVID-19の重症肺炎に対するVV-ECMOは、日本でも良好な成績を出しています。COVID-19肺炎を集約化する方策が早期からとられていたために、経験がない施設でVV-ECMOを強行することがないからです。安定した治療成績を収めるには、年間で30〜45症例の経験を積む必要があるとも推定されています。重症肺炎ではVV-ECMO 導入直後にCT画像で両肺真っ白最悪状態になりますが、発症から1カ月経過すると過形成した上皮細胞が脱落し、痰の量が増えながら回復します。長い戦いをVV-ECMOで乗り切るのです。私も、VV-ECMOで絶望的真っ白い肺から劇的に回復する患者を何人も見てきました。

ECMOの技術開発の向上や、治療経験の蓄積と医療スタッフの教育、施行施設の集約化などにより、重症呼吸循環不全患者に対するECMOの治療成績が向上することを期待したいです。

今 明秀(八戸市立市民病院院長)[ECMOの歴史]

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