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特集:起立性調節障害の診かた

No.5046 (2021年01月09日発行) P.18

田中英高 (OD低血圧クリニック田中院長)

登録日: 2021-01-08

最終更新日: 2021-01-06

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1986年大阪医科大学大学院卒業,Sweden Linköping大学にてFinapres診断法を研究。97年大阪医科大学小児科助教授。2000年日本小児心身医学会ODガイドライン委員長を務め,大学退職後,現職。 

はじめに,およびケース提示:起立性調節障害(OD)とは?

起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)とは,起立に伴う循環動態の変化に対する生体の代償的調節機構が,何らかの原因で破綻して生じたものである。この機構には,循環血液量,心拍出量,末梢血管特性,脳循環調節特性,そしてこれらを調節統合する自律神経機能が含まれる。ODはこの機構のいずれかに異常のみられる機能性身体疾患であり,自律神経系による循環調節不全が主要原因である。また一方で心理的ストレスによる影響を受けやすい。小学校高学年から中学校,高校の思春期に発症しやすく,ODの約半数に不登校が併存し,また不登校の3〜4割にODを伴うことから,体と心の両面からアプローチする必要のある心身症と位置づけられる(図1)1)
旧厚生省奥野班研究によると,一般小児科外来を受診した10〜15歳の8.5%が不定愁訴を伴う心身症,神経症等であり,その中でODは約7割を占め最も多かった。したがってODはプライマリ・ケア医にも診療していただきたいcommon diseaseである。
そこで,わかりやすいように具体的なケースを提示し,患者の経過を追いながらODガイドラインによる診療のポイントを解説した。

 ケース提示  Gさん(高校1年生)

Gさんは,全日制高校1年生。中学2年生頃から,体がだるい,ふらつく,頭痛,時には腹痛などの体調不良があり,朝が起きられず,週に1,2回,遅刻したり,欠席することがあった(解説1) 。
中学3年生,症状が悪化し,週の半分程度欠席するようになったので,かかりつけの内科を受診した。血液検査を受けたが異常なく原因がわからない,不登校かもしれないと言われた。夜は比較的元気なので,父親は「怠けている,気持ちの問題だ」と叱っていた解説2。2学期,近隣の大学病院小児科を受診。頭部MRIなどを含めて精査したが異常がないため,担当医は起立性調節障害(OD)を疑い,新起立試験解説3を行ったところ,血圧変動は正常であったが,起立時頻脈(臥位75→立位125)を認めた解説4 。担当医は,ODガイドラインに沿って疾病教育,非薬物療法,薬物療法と順に治療を進めた解説5 。 

症状は少し改善したが,欠席が続いた。高校受験の塾通いのため,就寝時刻は午前1時を過ぎ,朝には起床できず,午後から半分程度しか登校できなかった。学校からは『卒業したければ頑張りなさい』と励まされ,母親は「成績が悪くなり,落ち込んでいます」と言い,子どもを励まし続けた。担当医は,さらに詳しくODの病態を説明し解説6 ,Gさんは重症なので,「あまり無理しないように」と説明したが,両親は「受験前なのに,頑張ってもらわないと」と納得できない様子であった解説7-1 。3学期にはほとんど登校できず,友達から孤立しがちで,学業も遅れてしまい,親子の不安はさらに強くなった解説7-2 。 

無事に全日制高校に合格。2020年4月,新学期が始まったが,コロナパンデミックによる休校。Gさんは自宅でのんびりできて気持ちが楽になり,症状も軽減した。両親もODは治ったのかもしれないと思い,外出自粛要請もあり病院を受診しなかった。同年7月,学校での授業が再開されると,Gさんの症状はぶり返し,朝にはまったく起床できず2カ月間,欠席が続いた(解説8-1) 。

学校のことを考えるだけで気分が悪くなった解説8-2。元々,マイペースな性格で育てにくく,学校にも慣れにくかったGさんなので解説9 ,子どもの身勝手な行動だと,父親は叱った。9月,学校から両親に「欠席日数が多く,留年になるでしょう」と連絡があった解説10 。慌てた両親が,担当医を受診。新起立試験は改善していたが,気分の落ち込みが強く,担当医はうつ状態を疑った解説11 。精神科を紹介されたが,両親の希望で当クリニックを受診した。 

再度新起立試験を行ったところ,脳血流低下型ODであった(解説12 。その程度は重症レベルだったため,通学時間が約1時間かかる全日制高校への通学は困難と判断されたので,本人,保護者の希望で通信制高校へ転校することとなった。 

重症ODとして治療方針が決まり,また体力に見合った高校に転校することで,本人,保護者とも不安が軽減した。半年後には新起立試験の結果も改善傾向であった。 

解説のまとめ

 不定愁訴では,起立性調節障害(0D)と,ストレス関連症状を疑ってみる

OD患者の7~8割に,心理社会的ストレスが関与しているが,一般外来では,ODガイドラインに従って身体面での診断を重視する。

 ODは病気なのか? 疾患概念の変遷

小児のODは1950年代にドイツで報告された後日本に紹介され盛んに研究されたが,80年代にはOD症状は不登校に伴う身体症状という考えが主流になった。90年代に非侵襲的連続血圧測定装置(Finapres)が登場し,著者らが起立直後性低血圧を同定し,明確な身体疾患と認識され,2007年,日本小児心身医学会からODガイドラインが出版された。現在,ODは心理社会的因子が関与する身体疾患(心身症)と認知されている。

 ODの正しい診断法─新起立試験

①一般的検査によってOD症状を生ずる基礎疾患の除外診断を行い,②新起立試験によってサブタイプと重症度を判定し,③「心身症としてのOD」診断チェックリストを用いて「心理社会的関与」の有無の判定を行う。これらの詳細はODガイドラインに記載されている。

 ODのサブタイプ

①起立直後性低血圧,②体位性頻脈症候群,③血管迷走神経性失神,④遷延性起立性低血圧,の4つは,新起立試験によって一般外来で診断できる。近年,新しいサブタイプで脳血流低下型と高反応型が報告されているが,特殊な測定機器が必要である。

 ODの治療

(1)疾病教育,(2)非薬物療法,(3)学校への指導や連携,(4)薬物療法,(5)環境調整,(6)心理療法,を組み合わせて行う。

 ODの病態生理

起立に伴う下半身への過剰な血液移動による脳や全身臓器への血流低下が,自律神経系の高圧系と低圧系圧受容体反射や脳血管自動調節の障害によって生ずる。これには遺伝子多型が関与する。これらは根性や気の持ちようだけでは解決しない。

 心理社会的ストレス 1:家庭ストレス

保護者に疾患理解が少ないと,ODを怠けと考えて叱咤激励する。それによって子どもがストレスを溜めこんだり,反抗的になって,親子関係が悪化する。

 心理社会的ストレス 2:学校ストレス

教師の理解不足な対応,遅刻・欠席による友達からの疎外感,学業低下が重なり,自尊感情の低下を生ずる。

 悪化要因 1:デコンディショニングの関与

自宅中心の活動量が少ない生活→筋力低下・自律神経機能悪化→下半身への過剰血液移動→脳血流低下→さらに活動量低下という悪循環が生じて,デコンディショニング(deconditioning)状態となる。ウォーキングなどでデコンディショニングを予防することが大切。

 悪化要因 2:嫌悪刺激による自律神経を介した条件反射形成

学校で失神やOD症状を繰り返して条件反射が形成されると,学校を想起するだけで自律神経反射が生じて難治性となる。

 神経発達症の併存 

OD児の37~38%に神経発達症(発達障害)を併存する。学校不適応を生じやすく,欠席を繰り返すとデコンディショニングによりODを悪化させる。 

 高校進学に際しての進路選択

重症度が中等症~重症では,全日制高校の中退率が非常に高い。通信制高校など,体力に見合った高校進路選択が大切。

 精神科への受診

高校生以上で欠席が続くと留年・退学など切迫する事態になり,強い心理的ストレスに晒され,様々な精神症状が現れる。症状が強い場合,精神科へ紹介する。

 OD診断の新しい決め手─起立時脳血流低下の同定

脳血流低下型ODは,新起立試験において心拍数,血圧は正常だが,起立時に脳血流低下を起こす。

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