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【識者の眼】「evidenceと謂われるものの使い方」中井祐一郎

No.5044 (2020年12月26日発行) P.62

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

登録日: 2020-12-10

最終更新日: 2020-12-10

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evidence based medicine(EBM)の重要性が臨床の場においても浸透したのは喜ばしいことだが、その使い方が本来の企図からずれてきてはいないだろうか。

EBM確立の立役者であったSackettは、その思考過程を以下の5段階に分けている。即ち、①回答可能な臨床上の質問をいかに尋ねるか、②最善の根拠を探す、③根拠を批判的に吟味する、④この妥当で重要な根拠を自分の患者の医療に適用できるか、⑤評価、である。そして、この①〜③について纏めたものが、学会で作られているガイドラインというものだ。

①は、clinical question(CQ)という形でガイドラインに提示される。ここで医療者は、自身が持つ問いと類似したCQを探す訳だが、検討対象としたCQと自分の問いとの整合性を検討しなければならない。尤も、臨床医が持つ問いは共通するだろうから、CQそのままということも多いだろう。そして、②と③という手のかかる部分を、ガイドラインという形で専門家が纏めている。これで、問いに対する解が得られたと考える初学者も多いのではなかろうか。

標準化されたデータを証拠というのだろうが、結果を標準化する過程で、対象となる患者も標準化されてしまう。厳密にいえば、所与のCQを用いたことで、問い自体も標準化されている。そこで、EBMの臨床適用を正当化するためには、④の問いを吟味することが不可欠となる訳だ。この吟味には、個々の患者の病態と標準化された病態との異同は勿論、患者自身の価値観や選好との適合についても含まれる。良質のカンファレンスでは、前者についての議論はされるだろう。しかし、後者については医学とは関係ないと対象外にされてはいないだろうか。確かに、価値観や選好というものは医学の枠外である。しかし、医療は医学だけで行うものではない…これらも含めた検討を行い⑤の評価を行うという本来の道筋を忘れてはいけない。

なお、訳文は、久繁哲徳監訳による「根拠に基づく医療」(薬業時報社刊)に従った。

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]

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