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医師による任意の届け出[先生、ご存知ですか(34)]

No.5036 (2020年10月31日発行) P.65

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2020-10-28

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分かりにくい表現

医師には様々な届け出義務が課せられています。医師法では異状死体の届け出、感染症法では感染症患者の届け出、食品衛生法では食中毒患者の届け出など、様々です。しかし、医師による任意の届け出制度というものがあります。曖昧な表現ですが、医師の間では努力義務と捉えられているようです。

平成25年6月に改正された道路交通法(以下、道交法)では、一定の病気等に該当する者を診断した医師による任意の届け出について明記されました(道交法101条の6)。すなわち、診察を受けた者が一定の病気等に該当すると認め、その者が免許を受けていると知ったときは、その旨を公安委員会に任意に届け出ることができるとし、その届け出については刑法の守秘義務違反には抵触しないという内容です。これだけでは、あまりにわかりにくいので以下で解説します。

一定の病気

道交法や道交法施行規則で定められている「一定の病気等」とは、統合失調症、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、躁うつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、認知症、アルコール・麻薬・大麻・あへん又は覚醒剤の中毒者、を指します。

現在の法律では、認知症(脳血管性、アルツハイマー型、前頭側頭型、レビー小体型)と診断されると免許の取得・更新はできません。しかし、それ以外の場合は、ある疾患に罹患しているということだけで、免許の取得・更新ができない絶対的欠格事由はなく、個々の疾患の状態によって判断する相対的欠格事由になっています。ですから、上記疾患に罹患しているため公安委員会に届け出るということではありません。てんかんでも、発作が夜間に限る場合、無自覚性の低血糖症でも人為的に血糖を調整することができる場合、統合失調症でも薬物療法などで十分コントロールが良好である場合などは自動車の運転が可能です。

届け出るケース

たとえば、読者の先生方がてんかんの患者さんを診察していたとします。その患者さんが処方薬をきちんと服用せず、その結果てんかん発作を繰り返していたとします。患者さんに自動車の運転を控えるよう指示をしましたが、その患者さんが助言を聞き入れず自動車の運転を続けていることがあるかもしれません。このような危険な行為を放置すれば事故を起こしかねません。

したがって、疾患のコントロールが不良である、あるいは自動車を安全に運転できる程度ではないと判断した場合で、さらにその患者さんが先生の助言を聞き入れない場合、公安委員会にご連絡下さいということです。公安委員会が、当該運転者に対応することで交通社会の安全を守ります。

届け出制度の意義

この制度は、一定の病気によって安全に自動車を運転できないと考えられる患者が、運転を続けることによって生じる事故を予防することが目的です。一定の病気が原因で事故を起こしかねない運転者を見つけることは、交通社会の安全確保にとって重要です。ですから、任意ではあっても積極的に届け出を行って頂きたいと思います。

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