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指導・監査での防衛手段として「録音」の有効性を確認─「再々指導」受けた病院からの報告【まとめてみました】

No.5032 (2020年10月03日発行) P.14

登録日: 2020-09-30

最終更新日: 2023-10-17

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行きすぎた指導・監査や行政処分から保険医を守るため、健保法の抜本的見直しを目指す健康保険法改正研究会(代表:井上清成弁護士、石川善一弁護士)のシンポジウムが9月6日、オンライン形式で開催され、保険医療機関等に対する指導・監査を巡る最近の問題事例の報告などが行われた。個別指導で「再々指導」を経験した病院からは、「録音」の通告と「弁護士帯同」で指導側の高圧的な態度が一変したとの報告があり、指導・監査の場における録音などの有効性があらためて確認された。

  

「再々指導」まで3回にわたる個別指導を経験したA病院の報告によると、1回目の個別指導では「医師事務作業補助体制加算の算定が不当」「医療安全対策相談窓口のポスター掲示が認められない」などの指摘があった。ポスター掲示については別のポスターを見て不当と判断していたことが分かったものの、個別指導の結果としては「再指導」と判定された。

「暴言のオンパレード」

2回目の個別指導は、主に療養病棟入院基本料の医療区分・ADL区分の評価の根拠に関するものだったが、報告したA病院の院長によると、その指導は「暴言のオンパレード」だった。

「指導医療官は私が着席するなり『あなた、反省しているんですか』というケンカ腰の態度。ある患者さんについて私の記載が少ないことを発見し、なじり始め、『これはだめかもしれませんね。すべて入院料I(=最低ランクの点数)ですね』と言う。『最低限のことは書いてあるはずだ』と反論するとますますエスカレートし、医師会の立会いの先生がジェスチャーで『ここに書いてある』とカルテを指さしても無視。『このままじゃ帰れない。他のカルテをコピーしてきなさい』と非常に強い態度の指導がありました。カルテのコピーの義務はないことは知っていましたが、このままでは監査に移行されるかもしれないと思い、渋々2冊コピーして渡して、なんとか引き揚げていただきました」(院長)

その後、報告書を作成して地方厚生局に面談に出向き、「最低限のことは書いてあり、自主返還には相当しないはず」と主張したが、対応した事務官は「後出しは認めません」と返答。なおも食い下がると、「もう1回個別指導をしましょうか。次はありませんよ」と監査への移行をほのめかしてきたという。

3回目の個別指導(再々指導)では、事前に「すべて録音させてもらう」と通告。さらに3人の弁護士を帯同して臨んだところ、「指導する側も非常に緊張していて、不規則発言は全くなかった」(院長)。いくつかの指導を受けて、その日の個別指導は終了したという。

「録音させてもらう」の一言で態度一変

これらの経験を踏まえ、A病院の院長は防衛手段として「録音」の有効性を実感。「弁護士帯同はさらに迫力があるが、『録音をさせてもらう』の一言だけで相手の態度は全然違ったものになる。保険医の先生方にはぜひ活用いただきたい」と呼びかけた。

さらに、「個別指導の場では度を越えた暴言や恫喝が行われて精神を病むケースが続出しており、亡くなられた方もいると聞いている。『不当な指導を受ければ文句を言えばいい』と思われるかもしれないが、文句を言うとつぶされる可能性が大いにあるため、大半の保険医は、泣いて忍ぶか、こぶしを握って耐えるのが現状。国民の健康を守る立場にある官僚にはフェアにやってもらいたい」と述べ、指導する側の人権意識の向上、アカウンタビリティの徹底を訴えた。

帯同促進で弁護士会と保険医協会が連携

シンポでは各地の弁護士帯同の取り組みについても報告があり、広島弁護士会は2019年6月から会内に「保険医支援研究会」を発足させ、個別指導の帯同依頼に会員を派遣する取り組みを始めたことを紹介。広島県保険医協会と連携し、①共同の勉強会の開催、②帯同案件の紹介スキームの立案、③県内の個別指導の実態に関する情報共有(機関誌の配布等)─などについて協議を進めているとした。

報告した村田健児弁護士は「『個別指導や監査に立ち会います』といった保険医向けのチラシをいま作っている。今後、広島弁護士会内で(保険医対応可能な弁護士の)名簿を作成し、チラシを見た保険医から帯同の依頼が来たときに、名簿から弁護士を派遣するスキームを構築したいと考えている。医科歯科合わせて年間120〜130件ある県内の個別指導案件のうち2割くらいは帯同の依頼が来るようにし、(最終的には)全件弁護士が立ち会う形を実現したい」と弁護士帯同の普及に意欲を示した。

弁護士帯同も「不利にはならない」

健保法改正研究会では、2014年の日本弁護士連合会(日弁連)の意見書を踏まえ、保険医の権利として指導・監査における「録音・録画の権利」や「弁護士選任権」を法的に位置づけるよう求めているが、録音や弁護士帯同は現状でも可能。「弁護士帯同をすると反抗的ととらえられてしまう」という誤解がまだ一部にあることから、シンポの中で村田弁護士は「弁護士が付いても不利にならないことをアピールしていきたい」と述べた。

 

健保法改正研究会代表の井上弁護士も「かつては録音を拒否する厚生局もあったが、いまは当たり前のように録音は行われている。弁護士帯同も、どの医療機関も、誰もがやっているという状況にしていきたい」とコメントした。

 



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