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ひさびさの文楽[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(322)]

No.5032 (2020年10月03日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2020-09-30

最終更新日: 2020-09-29

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何度か書いたことがあるように、六代目豊竹呂太夫師匠に義太夫を習っている。早いもので、もうすぐ7年になる。もちろん語るだけでなく、文楽公演をよく見にいく。

本公演は大阪の文楽劇場と東京の国立劇場で年に7回ある。ここ数年は、そのほとんどの演目を鑑賞している。それが、コロナのせいで半年以上もの間、見る機会なし。ようやく、9月に東京で公演が再開された。

普段は二部、せいぜい三部制なのだが、今回は異例の四部構成。最大のお目当ては第三部の「絵本太功記 尼ヶ崎の段」、別名を太功記十段目、通称「太十」である。

太功記は、文楽だけでなく歌舞伎でも人気の演目のひとつで、織田信長(狂言では尾田春長)を討った明智光秀(同、武智光秀)を主人公に、豊臣秀吉(同、真柴久吉)との対立を描いた全十三段。中でも武智家の悲劇を描いた十段目が最大の見どころだ。

1時間を超える長い演目なので、「前」と「後」に分けられている。前は、義太夫が中堅(といっても50代半ば)の豊竹呂勢太夫、三味線が人間国宝・鶴澤清治。呂勢さんは昨年末から休演されていたので、1年ぶりの登場だったが、名人の三味線で実に生き生きと語られた。そして盆が回り、我らが師匠が、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」でお馴染みの三味線弾き、鶴澤清介さんと登場。

「盆が回る」って何や、と思われたかもしれない。太夫と三味線は舞台右手の床の上で演ずるのだが、そこにしつらえられているのが円盤状の盆である。それに乗っかった2人が回転して登場するのである。

いつもなら、くるっと回り終わったところで「待ってました六代目っ!」、そして、語りの前に床本(=台本)を拝むように掲げられたところで「呂太夫!、清介っ!」と勢いよく声を掛けるところなのだが、コロナで自粛要請が出ているので、ぐっと我慢。

僭越至極ではあるけれど、義太夫、三味線と人形との三業一体とはこういうものかと唸らされるほど素晴らしかった。長き休演の憂さを晴らすがごとく光秀は豪快に、そして、悲しい場面はあくまでも細やかに。

段切(段の終わり)で再び床本を掲げられたところで、「大当たり~っ!」と叫びたかったが、これも我慢。定員制限でお客さんは半分以下だったけれど、拍手の大きさはいつもに決して引けをとらなかった。いやぁ、ホンマにええもん見せてもらいましたわ。

なかののつぶやき
「義太夫を始める前は、まさかこんなに文楽に嵌まるとは夢にも思っていませんでした。11月の大阪・文楽劇場は『野崎村』に『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう』、国立劇場での12月公演は『仮名手本忠臣蔵 二つ玉の段~早野勘平切腹の段』に『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』。12月の国立劇場はさらに、初心者向けの鑑賞教室として『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』もあります。どれもオススメの名作ばかりです。だまされたと思って、ぜひ一度おはこびください!」

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