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【識者の眼】「新型コロナで経営に陰り、『地域医療連携推進法人』の活用も一案」小林利彦

No.5029 (2020年09月12日発行) P.61

小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)

登録日: 2020-09-02

最終更新日: 2020-09-02

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新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い医療業界全体の経営にやや陰りが見えている。各種団体による調査でも、4月以降の受診抑制等により、患者数の減少によって医業収益が激減している施設は少なくない。医療機関の収益構造は「患者数×単価+α」で成り立っているが、医療保険制度に依存した診療を行っている限り、単価を簡単に操作・調整することはできない。また、これまで患者数を左右してきたのは自施設の医療圏環境であり、周辺人口や競合施設の存在、地理的要件などのほか、口コミ等を含むマーケティング活動であったと言える。そのような背景のもと、先の収益構造にある「α(補助金・交付金・寄付など)」に頼ることが出来ない民間の医療機関では、ビジネスモデルの転換を含む何らかの対策検討や具体的アクションが必要になる。

一施設の対応策としては、オンライン診療などを活用した患者医療圏の再構築が一案として考えられる。実際、保険診療の可否には条件が加わるだろうが、集客に関しては、従来の空間的距離による受療制限が大きく緩和されるはずである。とはいえ、遠方からの患者集客を図るには、広報活動等の前に当該施設の機能強化や差別化が課題になる。

一方で、複数施設が協働し収益・費用構造を大きく変える方法として、「地域医療連携推進法人制度」の有効活用が考えられる。本制度は、もともと2013年から国が進めてきた地域医療構想の実現に向けて、地域の医療機関の衰退や共倒れなどを防ぐために、競争ではなく協調を選ぶ対応策の一つとして提案された。当初から一般企業における合併や買収のようなイメージが強く、批判的な意見が多かったが、参加法人が独立性を保ちながら、医薬品の共同購入や法人間の病床融通、人的交流、協働研修などが可能な仕組みになっている。

厚生労働省のウェブサイトによれば、2019年11月29日現在、全国で地域連携推進法人は15法人あるが、その組織構造や活動形態は様々である。本邦では、過半数の病院が150床未満とされ、80%ほどの施設は民間で運営されている。「病院の数が多く規模が小さい」という特徴から考えても、他の業界でよく見かける共同組合に近い「地域医療連携推進法人」化を積極的に検討しても良い時期が来ている気がする。ただし、同法人の起ち上げには複数の組織をまとめる「旗上げ役」が必要であり、それが行政にはなかなかできないのが本邦での悩ましい実態である。

小林利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)[地域医療]

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