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【識者の眼】「日本社会で法の恣意的運用が横行しているのではないか─賭け麻雀報道から考えたこと」堀 有伸

No.5017 (2020年06月20日発行) P.59

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-06-01

最終更新日: 2020-06-01

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2020年5月に、東京高等検察庁の検事長が緊急事態宣言中に新聞記者らと賭け麻雀を行っていたことが報道され、その検事長の辞職が閣議で承認されるという出来事がありました。いろいろともやもやが残る内容でした。

「賭け麻雀」のレートは、それほど高くなかったと報じられています。賭博は違法行為ですが、「その程度なら、現在の日本社会の中では許容されることも多いのではないか」という疑問が生じる程度です。そこで私が考えたのは、「この人物の違法行為がマスコミで報道され社会的な制裁を受けたのは、法を破ったからではなく、法を破っても庇護される立場でなくなったからではないか」ということでした。

自分が自動車の運転を始めた頃のことを思い出しました。制限速度は守らねばなりません。しかし、道路状況によっては周囲の車のほとんどが制限速度を超えていて、もしそれに固執して遵守すれば周囲に迷惑をかける場合があります。その時にアクセルを踏んでしまったという経験をした人は、少なくないでしょう。他に例えば、医療における診療報酬の請求においても、すべての規則を遵守して行うことが、容易ではなく感じられることがあります。

私は日本社会の規則の設定の仕方に疑問を感じることがあります。やむをえずそれを超えてしまうような人の出現が、最小限になるように規則が設定されるべきなのに、厳しく設定しすぎて、そうなっていないのです。しかし、もし法の制限を超える人が多数容認されている状況が続けば、法の遵守よりも、超法規的な、「法の違反を見逃してもらえる立場から、厳しく暴かれさらされる立場になること」が、社会において最も避けるべき事柄になります。つまり、法よりも社会や集団の空気が最重要になるのです。その場合、あらゆる法はその元になっている精神を骨抜きにされてしまう危険性があります。

2020年前半は新型コロナウイルス感染症の猛威への対応に明け暮れる日々となりました。良くも悪くも、「法の強制力が弱く、空気の強制力が強い」日本社会の強みと弱みを、まざまざと感じることの多い日々となっています。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[法と空気]

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