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【識者の眼】「当院の総合診療専門研修のオリエンテーション」吉田 伸

No.5016 (2020年06月13日発行) P.59

吉田 伸 (飯塚病院総合診療科)

登録日: 2020-05-28

最終更新日: 2020-05-28

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前回(No.5014)は総合診療専攻医たちの修了式について書いた。今月はその流れを汲んで総合診療研修のオリエンテーションについてご紹介する。

研修オリエンテーションの目的は主に、自己紹介、業務や制度の伝達、基礎知識の習得の3つである。1〜4週間くらいのスケジュールで実施され、すぐ診療業務に入るか、最初の業務は抑えてレクチャーで基礎知識の習得に時間をかけるかで長さが変わることが多い。

当院のプログラムは前者である。企業立病院だということもあるのかもしれないが、私が家庭医療について『熱く』語った80分のコアレクチャーなどは、対面でも半数の新入生が寝るか覚えていないという評価であり(涙)、果たして意味があったのかという指導医ミーティングの議論を経て年々短縮する方向にある。

その分、コスパのいい自己紹介や、業務・制度の伝達には時間が割かれるようになっている。これは、専攻医のバーンアウトや、患者安全の観点からのリスクマネジメントが働いているのだろう。昨年までは「私の取扱説明書」企画が定番で、自分の生まれ育ち、趣味、初期研修医の仕事をどう乗り越えてきたか、何が苦手で疲れやすいか、説明書という体裁でショートプレゼンしてもらっていた。会場は大抵居酒屋であった。懐かしい…。

患者安全の観点からの伝達というのは、その一年、自分の病院でよくあったインシデント・アクシデント・ムリムダムラ事例を、看護部・薬剤部・リハビリテーション部・医事課などが新入生に30分レクチャーするものである。プログラム責任者による、診療や研修の困りごとを誰に相談したらよいかの説明も専攻医にとってはセーフティネットとなる。

もともと、研修医のバーンアウト率はだいたい1〜3割と言われており、ありふれた問題となっている。彼らは故郷やそれまで慣れてきた初期研修病院を離れ、全く新しい組織や人間関係に身を置き、一人前の医師としていよいよ診断や治療計画まで責任を持つようになるため、精神的な消耗が水面下で進んでいくことは想像に難くない。しかも今回は新型コロナウイルス感染により、受け入れ側の研修医療機関が非常体制となっているため、前年までの指導体制が崩れてしまうこともあるだろう。ハイリスクである。

今年、当院ではビデオ会議システムを用いた短時間のコアレクチャーやその録画配信を試した。効果は個々の専攻医へのフォローアップをしながら、数カ月でわかってくるであろう。

すべての新天地で自らの研鑽と日常診療に加え、新型コロナウイルス診療に向き合う新専攻医たちの心身の健康を願ってやまない。

吉田 伸(飯塚病院総合診療科)[総合診療指導医奮闘記⑤]

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