No.5012 (2020年05月16日発行) P.67
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2020-05-08
最終更新日: 2020-05-08
新型コロナウイルスの感染拡大は、まさに世界を一変させました。コロナウイルスとの戦いの最前線にいらっしゃる先生方や医療従事者の方には、心より感謝申し上げます。一般企業では、新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークやリモートワークが脚光を浴びています。実際、私も感染防止のため、基本的に在宅で仕事をするようにしています。テレワークによって「結果で評価する傾向が強くなり、生産性の低い人が可視化されてしまった」と言われるようになりました。よくも悪くも、アフターコロナは、働き方を根本から変えてしまいそうです。
厚生労働省も、時限的措置ではありますが、感染防止のため電話や情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)を一部解禁し、全国の対応医療機関リストを公開しています。オンライン診療がどのように進展するかは、注目していきたいところです。
さて、クリニックにおいては、コロナ禍の影響による来院患者の減少も大きな問題です。持続化給付金のほか、各種融資等を利用してこの危機を乗り切ることが重要ですが、場合によってはリストラ(人員削減)を行わざるを得ないケースも考えられます。顧問先のクリニックからも、整理解雇や退職勧奨に関するご相談が徐々に増え始めている印象です。しかし、整理解雇が有効とされるための要件はかなり厳しく、通常の解雇に比べてさらに厳格に判断されます。裁判上、整理解雇が無効と判断されるケースも少なくありません。具体的には下記の4つの要件が必要とされています。
・人員削減の必要性(人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること)
・解雇回避の努力(配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと)
・人選の合理性(整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること)
・解雇手続の妥当性(労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと)
「クリニックの経営が危機的な状況にあるのだからしょうがないじゃないか」「全員の雇用を守ろうとすると共倒れになってしまう」と言いたくなりますが、裁判所は「不況や経営不振は使用者側の事情」と考えているため、かなり厳しく判断されてしまいます。整理解雇の選択はきわめて慎重に判断する必要があります。ある程度余裕があるうちに、退職金割増を含めた希望退職者の募集などの方法を検討しておくべきでしょう。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]