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【識者の眼】「東京世田谷区における薬物性潰瘍出血の実態─DOACsを甘く見ていませんか?」渡邉一宏

No.5011 (2020年05月09日発行) P.40

渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)

登録日: 2020-05-11

最終更新日: 2020-05-01

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2015年の消化性潰瘍診療ガイドライン1)ではピロリ菌と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が消化性潰瘍の2大成因とされている。投薬開始前のピロリ除菌は常識としておき、今回は我々の地域における薬物性潰瘍に注目してみたい。2012年までの東京都世田谷区にある当院の上部内視鏡止血患者の出血原因として否定できない薬物を図に示す。低用量アスピリンとロキソプロフェンNaが薬物性潰瘍の2大原因は予想通りであるが、驚いたことに消化管障害が少ないはずのCOX-2阻害や一般用医薬品(OTC)のNSAIDsも極少数に認めている。さらに2012年からは発売直後の直接経口抗凝固剤(DOAC)でも認め始めており、薬品販売数が増えるほど出血の機会も増えると考えられる。

さてアスピリンはNSAIDかつ抗血小板作用を持つため抗血小板薬に含まれるが、逆に抗血小板薬はNSAIDsではないので混同してはいけない。2008年Circulation誌の解説でも抗血小板薬(クロピドグレルなど)は胃十二指腸潰瘍の主な原因ではないのかもしれないが、発症する胃びらんか小さな潰瘍の治癒を損なう可能性があるとされる。DOACは不明。2007年 CMAJ誌の英国診療データベース解析では単剤でのGI出血のオッズ比がアスピリン1.39<クロピドグレル1.67<ワルファリン1.97であった。さらに2014年Lancet誌の心房細動患者48試験メタ解析2)では、同じオッズ比がワルファリン1に対しDOACs1.25であり、実はDOACsのGI出血が最も高率で制酸剤が必須なのかもしれない。2018年JAMA誌のUSメディケア受給者解析ではDOACsとPPIの併用でGI出血入院率が有意に減少している。ちなみに当院の2015年は、すでに薬物性GI出血の1/3がDOACsである。

今後は販売数が増加していく薬剤により薬物性潰瘍の勢力図が様変わりして行く可能性がある。特に特殊なNSAIDsやDOACsやDAPTなど時代の変化に対応した出血予防戦略が必要である。この時期に吐血が起きないように、+制酸剤をお願いしたい。

【文献】

1) 日本消化器病学会:消化性潰瘍診療ガイドライン 2015(改訂第2版). 南光堂, 2015.

2) Ruff CT, et al:Lancet. 2014;383:955-62.

渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][上部消化管内視鏡止血③]

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