腎動脈内にアブレーションを挿入し、動脈壁内の神経を焼灼する腎動脈内アブレーション(腎除神経術)は、治療抵抗性高血圧における著明な降圧作用が2009年に報告されると、瞬く間に高血圧研究の最前線に躍り出た。そして有用性を期待させる多くのデータの報告が続き、高血圧に対する「根治」さえ期待された。しかし2014年のSYMPLICITY HTN-3試験では、偽手技群を上回る降圧作用を示せず、かつての興奮は去った。その後も一部研究者は、腎除神経術の有用性を探り続けている。今回、コロナウイルス蔓延のためWeb上での開催となった米国心臓病学会学術集会(バーチャルACC)で報告された、“SPYRAL HTN–OFF MED”試験もその1つである。Michael Böhm氏(ザールランド大学、ドイツ)が、一般口演として報告した。
治療抵抗性高血圧に対する腎動脈除神経による降圧作用を証明できなかった、上記SYMPLICITY HTN-3試験では、除神経後の降圧薬変更が結果に影響を与えていた可能性が指摘されている。そこで本試験では、降圧薬非服用351例を対象とし、腎除神経群と偽手技群にランダム化した。降圧薬非服用は、自己申告のみならず、尿検査でも確認した。
351例という症例数は、2群間の降圧作用を比較するのに十分な数として決定された。患者とインターベンション施行後を担当する医師は、割付群を知らされていない。またアブレーションには、SYMPLICITYカテーテルよりもより確実に神経を焼灼できるSPYRALカテーテルを用い、また焼灼部位も、上記SYMPLICITY HTN-3試験よりも適切な部位に変更した。
患者の平均年齢は53歳、約65%が男性で、高血圧罹患歴5年超が55%を占めた。試験開始時の診察室血圧は163/102mmHg、24時間平均血圧は151/99mmHgだった。
試験開始3カ月後、腎除神経群では偽手技群に比べ、診察室血圧は6.6/4.4mmHg、24時間血圧は4.0/3.1mmHgの有意低値となっていた。加えて24時間血圧の推移を見ると、腎除神経群では24時間を通し、同様の降圧幅が観察された。また、年齢、性別、肥満度、喫煙の有無、糖尿病合併の有無、黒人、はいずれも、腎除神経による降圧作用に影響を与えていなかった。これらの結果は、降圧薬を服用していたプロトコール違反の36例を除いても同様だった。
手技関連の重篤な有害事象は観察されなかった。
指定討論者からは、「降圧幅が小さいのではないか」との疑問が寄せられた。これに対しBöhm氏は、全員で血圧が正常化したわけではないが、腎除神経による降圧作用は経時的に漸増することがこれまでの臨床試験から明らかになっていると述べるとともに(本試験は降圧薬非服用なので、倫理的にこれ以上の観察は不可能)、降圧薬併用が必要となった場合でも、必要降圧薬数が減るというメリットをもたらし得る可能性を指摘した。
また腎動脈アブレーションにより、本当に「除神経」されているのかとの問いに対しては、本試験では交感神経抑制の程度を検討していないが、以前の試験で確認しているとのことだった。
本試験はMedtronic社の出資を受けて実施された。また報告と同時にLancet誌にオンライン公開された。