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【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏(9)島崎茂樹(ノーベルファーマ副社長執行役員/研究開発本部長)】アカデミアと連携し、他社が手がけない医薬品研究開発に果敢に挑戦

No.4996 (2020年01月25日発行) P.14

登録日: 2020-01-23

最終更新日: 2020-05-28

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「必要なのに顧みられない医薬品・医療機器の提供を通して、社会に貢献する」をミッションとして、患者数が少なく収益を見込むことができない医薬品の研究開発にも果敢に取り組むノーベルファーマ。2003年の創業以降、開発した製品は医療機器の「チタンブリッジ」を含め16品目に及ぶが、うち10品目がオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)というところにも、社会貢献を最優先する企業の姿勢がうかがえる。2019年12月に上市したばかりの鼓膜穿孔治療剤「リティンパ」の開発経緯を中心に、アカデミアの成果を速やかに実用化につなげる同社独自の開発戦略について島崎茂樹研究開発本部長に聞いた。

しまさき しげき:1980年東大医学部保健学科卒、三菱化成工業(現・三菱ケミカル)入社。同社臨床開発部長などを経て、2007年ノーベルファーマ入社。08年より研究開発本部長。

「出口企業」として開発を支援

─12月9日に発売された鼓膜穿孔治療剤「リティンパ耳科用250μgセット」は、アカデミアの成果を引き継いで製品化したものということですが、具体的な開発経緯を教えていただけますでしょうか。

島崎 「リティンパ」は、褥瘡の治療などに使われているヒト塩基性線維芽細胞増殖因子bFGF(一般名:トラフェルミン)を主成分とする鼓膜穿孔治療剤です。
bFGFを用いた鼓膜再生療法は、北野病院の金丸眞一先生が考案し臨床研究の経験を積まれていた新しい治療法(図)で、これを実用化するために、神戸のTRI(医療イノベーション推進センター)支援の下、先端医療センター病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)、京大病院、慶大病院が医師主導治験を進めてきました。その成果を基に当社が出口企業として承認申請を行ったというのが経緯です。

自然閉鎖が見込まれない鼓膜穿孔に対しては、これまで耳後部から結合組織や軟骨片を採取し、穿孔部位に移植する鼓膜形成手術などが行われてきましたが、侵襲性が高く、聴力が改善されない場合があるなどの課題があり、低侵襲で外来でも実施可能な治療法が望まれていました。
「リティンパ」による治療は、当社が独自に開発したゼラチンスポンジにbFGFを浸潤させ、それを鼓膜穿孔部に留置し、組織接着剤(フィブリン糊)で接着・閉鎖することで鼓膜の再生環境を保つ治療法です。侵襲性が低いことから、外来で行うことも可能です。技術も含め保険適用が認められましたので(技術料:鼓膜穿孔閉鎖術1580点)、患者さんにとって非常にアクセスしやすいものになると期待しています。

─開発中苦労されたところは?

島崎 bFGFとゼラチンスポンジとフィブリン糊を組み合わせて治療するという手技になりますので、当社というよりも先生方の間で、治療の手順を取り決めるのにかなり手間暇をかけたということがあります。

─臨床試験の成績はどうだったのですか。

島崎 治験(国内第Ⅲ相試験)では、6カ月以上自然閉鎖が認められない鼓膜穿孔患者20例に対し最大4回の処置を実施しましたが、鼓膜閉鎖割合は75%。聴力は100%改善し、高い有効性が確認されました。
「リティンパ」による治療はすでに50施設を超える医療機関で採用が決まっていると聞いています。

「やってみなくちゃ判らない」

─アカデミアとの連携で開発した製品にはほかにどのようなものがありますか。

島崎 先駆け審査指定制度の指定を受けて2017〜18年に承認された「チタンブリッジ」と「ラパリムスゲル」(一般名:シロリムス)もアカデミアの成果を引き継いだものです。
「チタンブリッジ」は内転型痙攣性発声障害の治療に用いる医療機器です。京大名誉教授の一色信彦先生が世界に先駆けて開発した医療技術を実用化するため、熊本大を中心に医師主導治験が進められ、当社が出口企業として協力しました。
「ラパリムスゲル」は、結節性硬化症に特異的な皮膚病変の1つである血管線維腫にシロリムス外用ゲル剤が極めて有効であることを阪大の研究グループが医師主導治験で明らかにし、私たちが第Ⅲ相試験と長期投与試験で効果と安全性を検証し開発した外用剤です。

─医療機器や外用剤の開発経験がない中でチャレンジするのは大変だったのではないでしょうか。

島崎 当社の行動基準の1つに「やってみなくちゃ判らない、しかし、損切りをためらうな」というのがあります。アカデミアから提案があったとき、すぐに 「難しそうだ」と考えるのではなく、「難しいかどうか、やってみなくちゃ判らない。チャレンジしよう」と私たちは考えます。ただ、「損切りをためらうな」ということで、実際にやってみて難しいと判断したら、関係者の理解を得ながら、ロスが拡大しないよう早期に見切りをつけることも大事にしています。

アイデアがあれば気軽にコンタクトを

─島崎さん自身、これまで開発の仕事に携わる中で大切にしてきたことは何ですか。

島崎 スピード感を持って物事を考えるようにしています。データの品質も大事ですが、医療ニーズに早く応えることも重要ですので、品質とスピードのバランスはいつも意識しています。

─特に思い出深い仕事は?

島崎 すべての製品が思い出深いですね(笑)。
特に、未熟児無呼吸発作治療剤の「レスピア」(一般名:無水カフェイン)は、未熟児を対象とする治験でしたので症例を集めるのが大変でした。成分はカフェインで、そんなにリスクはないのですが、ご両親の承諾が得るのが難しく、また、NICUの現場は多忙で治験ばかりに力を注ぐわけにもいかないので、難易度の高い治験でした。それでも多くの先生方にご協力いただき、無事承認にこぎ着けることができました。
当社の医薬品開発に関わる先生方は熱心な方ばかりですので、いつもありがたいのは、私たちから無理にお願いしなくても先生方が積極的に協力してくださることです。私たちとしても社会貢献度の高い製品の開発に携われるのは、非常にやりがいがあります。

─最後に現場の臨床医へのメッセージを。

島崎 新しい治療法の実用化の部分で困っていることがありましたら、ぜひお声がけいただきたいと思います。大手・中堅の製薬会社すべてに断られてもノーベルファーマだったら何とかしてくれるということで、当社は「最後の出口企業」ともいわれています(笑)。
原則、基礎研究は行っていませんので、新しい化合物を見つけるような機能はありませんが、具体的にこういう薬剤があって、こういう患者さんに使えるのではないか、というアイデアがありましたら、遠慮なく私たちにコンタクトしてください。

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