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チキンラーメンでなくっちゃね[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(251)]

No.4959 (2019年05月11日発行) P.61

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2019-05-08

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朝ドラを観る習慣はない。それでも時々「まんぷく」を観ては、ヒロイン福子を演じる安藤サクラの大阪弁はうまいけど微妙に下手とか、主人の萬平はモデルの安藤百福と同じように台湾出身にしたほうがええんとちゃうんかとか、ひとりごちていた。

番組のおかげでチキンラーメンの売上げがえらく伸びたらしい。その気持ち、わかる。ドラマとは関係なく、たまにではあるが、無性に食べたくなっては買ってくる。

初めて食べた日のことは今でも鮮明に覚えている。幼稚園か小学校にあがったころの土曜日の昼ご飯だった。当時は、板の間にちゃぶ台で、正座をしての食事だった。

丼にいれてお湯をかけて蓋をする。嬉しいし気になるし、何度も何度も蓋をあけた。祖母は蓋をしたまま待っていた。そして3分。祖母のチキンラーメンの方がよくほぐれて透明で美味しそうに見えた。

そっちを食べたいとせがんだが、「あんたは落ち着きがないからうまいことでけへんのです。あきません」と叱られた。

まるでホームドラマの一場面のように記憶している。丼の模様まで瞼にうかぶ。どうしてこんなによく覚えているのか不思議である。よほど悲しかったのだろうか。

カップヌードルが発売されたのは中学生の頃。これはもう、日清食品が一社で提供していたTV番組「ヤングおー!おー!」と切り離しては考えられない。若い人はご存じないだろうが、とんでもない人気バラエティー番組だった。司会は斎藤努アナ。

哲学者・鷲田清一先生もファンだったらしい。とあるパーティーで「斎藤さんがいはんねやから、せっかくやし、あれやってもらお」とおっしゃって、みんなで右腕を突き出して「ヤングおー!おー!」と雄叫びをあげたほどだから間違いない。

歩行者天国で歩きながら食べるとか、カップヌードルがファッションだった。チキンラーメンと同じく、これも、たまにやたらと食べたくなる。ちっこいエビと、ちょっと得体の知れない「謎肉」を口に入れては、あぁこの味やったと安心する。

即席麺、日本では年間57億食強で、世界では1000億食を超えている。ホンマですか、と言いたくなる数だ。間違いなく日本が産んだ偉大な食文化である。初めて食べたチキンラーメンのことをしっかり覚えているのがなんだか嬉しい。

なかののつぶやき

「ドラマもいいけれど、やはりノンフィクションの方がおもしろい。安藤百福の自伝、オススメです。イノベーションとはどういうものかがよくわかります」

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