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Shaken baby syndromeをめぐる誤解[先生、ご存知ですか(16)]

No.4955 (2019年04月13日発行) P.59

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2019-04-12

最終更新日: 2019-04-09

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乳幼児の頭部外傷

虐待されて亡くなる児の多くは頭部外傷が原因です。特に乳幼児では、頭蓋骨が完全に縫合で結合しておらず、かつ骨も柔らかいため、頭蓋骨骨折は起こしにくいです。さらに、骨と硬膜は癒着していますから、頭部に強力な外力が作用すると硬膜下血腫を起こしやすくなります。被虐待児における損傷のスクリーニング検査としては、頭部CT検査が有用です。

Shaken baby syndrome

乳幼児の体をもって前後に暴力的に動かすと、首が据わっていない乳幼児の頭部は前後方向に激しく振られます。その結果、脳にずれの力(剪断力)が加わって脳表面の血管や架橋静脈が損傷され硬膜下血腫が生じます。1970年代に、この状態がShaken baby syndromeとして提唱されました。同時に脳腫脹や網膜の出血も生じることが多く、硬膜下血腫と合わせて3徴と言われています。

しかし、このような損傷が生じるのは、頭部重量の体重に占める割合が大きく、首の筋力が未熟で、脳の髄鞘化が不十分であるという、ある限られた時期です。さらに、体を前後に動かす程度も3.5Hz程度必要と言われています。したがって、決して「揺さぶる」のではなく、カクテルをつくる際の動きに近い、激しい「shake」なのです。

私は、「揺さぶられっこ症候群」という和名には納得できません。実際に医療機関を受診し、結果的に「揺さぶられっこ症候群」と診断された児の場合、保護者は「たかいたかいをしていたら、おかしくなった」「ソファから転がったようだ」「自動車に乗せていて、でこぼこ道を走っていたらおかしくなった」などと説明するそうです。しかし、揺さぶられっこ症候群は一般的な日常行為や子供の悪ふざけなどで起こるものではありません。暴力的に体を揺さぶった結果生じるのです。

虐待者の多くは自らの手や足などで暴行を加えます。手足のように作用面が滑らかな鈍体で打撲を受けた場合には、皮膚に明らかな変化を伴わないことがあります。実際は殴打したり、畳などに打ちつけたとしても、外表に明らかな損傷が残らないため、不慮の「揺さぶられっこ症候群」が生じたことにしているのです。

先のように、硬膜下血腫がある場合には、まず、激しい直達外力を受けたと考えるべきです。もう1度、頭部をよく観察し、さらに頭皮下や帽状腱膜下血腫の有無を確認してください。

Shaken baby syndromeが隠れ蓑に

かつて6歳児が柔道の稽古中に硬膜下血腫を発症して死亡する事故が発生しました。同様の事故は残念ながら複数あります。これらの裁判で、被告人が道着の襟をつかんで何度も動かすことによって頭部に急加速と急減速の衝撃が加わり、急性硬膜下血腫を発症した、と認定されましたが、これは科学的に明らかな誤りです。

私は、自動車衝突試験用ダミーを用いて、柔道における急性硬膜下血腫の発生機序を調べました。その結果、投げられて頭部を畳に打ちつけられた時に極めて大きな加速度が作用しており、それ以外の状態とは明らかな差がありました。乳幼児でない子供が柔道で揺さぶられただけでは硬膜下血腫は起こり得ず、頭部を激しく打撲した際に起こるのです。

このように、Shaken baby syndromeが隠れ蓑に用いられている現状を憂慮しています。

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