株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【医院建築探訪(4)〈いちはら耳鼻咽喉科 (千葉・市原市)〉】スムーズなスタッフ動線で理想の医療を実現したい

No.4945 (2019年02月02日発行) P.14

登録日: 2019-02-01

最終更新日: 2023-10-02

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

程よい採光が心地良い吹き抜けの待合室。医療機関にありがちな息苦しさは全くなく、気分をやわらげながら診察を待つことができる。

クリニックは開業後、自院を取り巻く環境の変化や医学・医療の進歩、医療制度の変更などのさまざまな要因によって、診療スタイルを大きく見直す必要に迫られるケースがある。連載第4回では、必要に応じて増改築を重ねてきたものの、敷地が手狭になり、機能面でも不便さを感じるようになったため、同じ医療圏内に新院を建て直したクリニックの 事例を紹介する。【毎月第1週号に掲載】

駐車場不足解消のため新院を建設

千葉県市原市にあるいちはら耳鼻咽喉科は2001年に開業した。千葉大病院などで耳鼻咽喉科の先端医療に長年従事してきた院長の片橋立秋さん(写真)の丁寧かつ専門性の高い診療が評判を呼び、多い日には約200人もの患者が訪れるようになった。そこで浮上してきたのが、駐車スペースの不足問題だった。

地域の主な移動手段は自家用車で、住民がかかりつけ医を選ぶ際には「車が停めやすい」ことも判断基準になる土地柄だ。

「患者さんにとって医療機関は基本的に前向きに訪れる場所ではありません。車が停めにくいことで、よりストレスを感じてしまうような状況は避けようと、移転を決めました」(片橋さん)

16年9月に竣工した新院は、1000坪以上という恵まれた敷地特性を生かし、駐車スペース50台分を確保。大通り沿いに位置し、アクセスは格段に向上した。

カルテ庫の配置が課題だった

クリニックの機能面での大きな課題は、質の高い医療を提供するために必要なスタッフ動線の確保だった。同院は院長の片橋さんが1人医師体制で診療を行う。多数訪れる患者に対応するには、常時10人以上いる看護師や事務スタッフが、院内をスムーズに動ける環境が重要となる。

スタッフ全員が動線計画で重視していたのは、カルテ庫の配置場所。同院ではカルテ入力に時間をあまりかけられないため、機動力に優れる紙カルテを使用している。旧院は増改築に伴う度重なるレイアウト変更で、受付とカルテ庫が離れてしまい、診察室を通らなければカルテを取りにいけない構造だった。不便さやストレスを感じることも多く、片桐さんが建て替えを決めた理由の1つになっていた。

スタッフの流れを何度もシミュレーション

新院建設にあたり片橋さんがパートナーに選んだのは、全国で多くの医院建築を手がけるハウスメーカーのミサワホーム(https://www.misawa.co.jp/iryou_kaigo/index.html)。ミサワホームには医院建築専門の部署があり、設計・施行にとどまらず、診療圏の分析から経営戦略の立案に至るまで医療機関への総合的なサポートを行っている。複数のハウスメーカーを検討する中で、ミサワホームに設計・施行を依頼した理由を片橋さんはこう語る。

「知り合いの先生から、対応の良さや提案力、デザイン力については評判を聞いていましたが、印象的だったのはミサワホームの担当者がとにかく話をじっくり聞いてくれたことです。こちらの思いや要望を引き出した上で、一緒に作り上げていくというスタイルはとても信頼できるものでした」

スムーズな動線を可能にするカルテ庫(写真1)の配置という難問に対し、片橋さんやスタッフとの打ち合わせや修正を経て、ミサワホームが出した答えが上の1階部分の図面。各スタッフの業務の流れを何度もシミュレーションし、受付から診療、検査、入力、会計までカルテがスムーズに流れていく動線が実現した。

将来の2ユニット設置を見据えてスペースを確保した診察室からは、各部屋の様子が把握できるように検査室や処置室を配置。人の出入りが多いカルテ庫と診察室を中心に、その外周を流れていくようなイメージのレイアウトとなっている。通路幅(写真2)は外周が1.2mで、中央のメイン通路は1.6m。人がすれ違うことによるストレスを軽減するため、ミサワホームの設計士が旧院の寸法を計測し、通路幅にゆとりを持たせた。

片橋さんが患者目線でこだわったのは、クリニックの居心地だ。待合室(前頁写真、写真3)は、患者が長い時間を過ごすことを考慮し、吹き抜けを採用。高さ5.2m、広さ約25帖の開放感あふれる空間には程よい光が差し込む。清潔感のある白を基調としつつ、木目調のクロスをアクセントに使うことで大空間の落ち着きを演出し、受診前の患者の不安をやわらげる効果が期待できる。

外観(写真4)も患者が気軽に入れるよう、シンプルなデザインにまとまっている。ファサードは、決して華美ではないが、全面にタイルを施した大きさの異なるボックスをいくつも組み合わせることでスクエアなラインが際立ち、端正かつモダンな印象を与える。

新院の仕上がりを片橋さんは高く評価。「『こういうクリニックにしたい』という目標は十分達成しました。ただ使っていくうちに新しい要望が出てくるものです。その場合にも丁寧、迅速に対応してくれるので、とても満足しています」

スタッフが働きやすい環境を目指した

旧院は当初、県内でも珍しい日帰り手術をメインに行うクリニックとして開業した。集患は順調だったが、やがて日帰り手術を実施する病院が増加。「それならば手術はバックアップ体制の整っている病院に任せよう」と考え、自然な流れでいわゆる街の耳鼻咽喉科としての診療スタイルに徐々に移行してきた。

片橋さんが現在目指しているのは「辛くなったらいつでも気軽に診てもらえるクリニック」。そのためなるべく長時間クリニックを開け、午後11時過ぎまで診療していることも珍しくない。「普段忙しい人でも通院できるようにしてあげたい」という思いから、平日は2階に泊まり込んで診療に当たる。

「長時間診療するには、私もスタッフも極力ストレスを感じないようにすることが大切です。そのために新院は患者さんだけでなく、スタッフが働きやすい環境も配慮したレイアウトのクリニックになりました。医療は医師だけで完成するものではありません。スタッフ全員の力を結集して、理想の医療をこれからも追求していきたいと思います」(片橋さん)

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top