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死体検案で死因を決定する際のポイント[先生、ご存知ですか(12)]

No.4940 (2018年12月29日発行) P.64

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2018-12-28

最終更新日: 2018-12-20

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主に異状死体に対しては死体検案が行われますが、医師の資格があれば死体検案を行うことができます。今回は、死体検案で死因を決定する際のポイントをご紹介します。

1. 情報の収集

死体検案は警察に届けた後に行われます。そこで、発見時や最終生存確認時の状況などについて警察官から聴き取ります。次に、家族からの聴き取りやお薬手帳などで、既往歴や内服薬を確認します。主治医が明らかである場合には、患者さんの状態がどのようであったかを尋ねることも効果的です。また、死亡直前に医療機関へ搬送されている際には、その時の情報を確認します。

2.全身観察と診察

まずは視診です。必ず裸にして全身をよく観察します。全身の色調や浮腫の有無を確認した後、上から順に観察します。有機リン中毒では縮瞳が、頭部外傷では瞳孔径の左右差が見られることがあるので、瞳孔径とその左右差を確認することは重要です。眼球・眼瞼結膜下に溢血点と呼ばれる点状出血があるかを確認します。溢血点は急死(突然死)の際によく発現します。死後ある程度の時間が経過していると死斑が発現します。死斑の色調は死因の推定に役立ちます。死斑が淡赤色ならば貧血を、紅色ならば低体温や一酸化炭素中毒を、緑青色ならば硫化水素中毒を疑います。損傷がある場合にはどのようにして損傷が生じたかを考えてください。

次に、一般の身体診察と同様に触診を行い、リンパ節腫脹や腫瘤の有無等を確認します。打診では、胸腔や腹腔内の液体貯留を調べ、必要に応じて波動を確認します。

3.血液検査

死因の診断のために、心臓血などを採取して血液検査を行うことがあります。死戦期や死後変化の影響があるため診断的意義をなさないものと、死因決定に比較的有用なものとがあります

まず血算ですが、ヘモグロビン値(Hb)の低下で貧血の判断ができます。次に生化学ですが、AST、ALT、LDH、γ-GTP等の酵素は、生前の肝機能の評価に用いることはできません。しかし、ビリルビンは胆汁うっ滞の指標になります。また、コリンエステラーゼは肝硬変などの肝不全、有機リンやカーバメート系農薬の中毒で異常低値を示すので、進行した肝硬変や有機リン中毒の診断に有用です。尿素窒素やクレアチニンは生前の腎機能障害の診断に応用することができます。

心筋障害のマーカーとしてトロポニンTやクレアチンキナーゼMB(CK-MB)が知られていますが、これらのマーカーは死後変化や心肺蘇生の影響を受けやすく、急性の冠動脈病変の有無の判定には使えません。しかし、炎症の指標であるCRPは死後においても感染症などによる炎症の重症度評価に役立ちます。さらに、大動脈解離でも上昇するので、診断に有用です。細菌感染の鑑別や敗血症の重症度判定に有用なプロカルシトニンは、死後も敗血症の指標として利用できます。

以上のような情報をもとに、実際に死後の内科診察を行って死因を究明してください。もちろん、診断には限界がありますので、判断しかねる場合には積極的に解剖を施行するよう進言してください

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