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心筋梗塞はどのような観点から分類されているか?

No.4936 (2018年12月01日発行) P.60

藤野雅史 (国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門冠疾患科)

登録日: 2018-12-03

最終更新日: 2018-11-27

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心筋梗塞は最近,どのように分類されているか,ご解説下さい。

(東京都 F)


【回答】

【主に心筋バイオマーカー心臓トロポニンの測定結果に基づいて,原因別に5型に分類される】

米国,欧州の学会共同による心筋梗塞のuniversal definitionが2000年に提言され,2018年には第4版として改訂されました。心筋バイオマーカー測定技術の進歩により,これまでの血液あるいは画像検査で判別できなかった心筋壊死を検知できるようになり,心筋虚血を原因とするあらゆる心筋細胞の壊死が心筋梗塞であるという,心臓トロポニン(troponin:Tn)陽性に基づく心筋梗塞の定義がなされました1)

急性冠症候群では,初期診断と初期治療が重要視され,心臓Tnは簡便な全血迅速診断法で,クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)あるいはCK-MBより感度・特異度に優れ,患者のリスク層別あるいは治療方針の指標として有用であり,緊急対応におけるトリアージへの活用が推奨された診療ガイドラインの背景とも一致していました。

universal definitionでは心筋梗塞の原因によりType 1~5に分類されています(表1)。Type 1はアテローム性動脈硬化に併発した血栓症によるもの,Type 2は心筋への酸素の需要と供給のミスマッチによるもので,つまり冠動脈狭窄病変における酸素需給のインバランス,冠動脈攣縮,冠動脈解離などにより心筋壊死を伴う心筋傷害を認めるものです。Type 3は心筋バイオマーカー未評価の状況下での心筋虚血による突然死で,心筋梗塞診断に心筋バイオマーカーの上昇が必須なので,この分類がなければ臨床試験や疫学において心筋梗塞による突然死の分類が不可能となります。Type 4aは経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)手技関連によるもの,Type 4bはステント血栓症によるもの,Type 5は冠動脈バイパス(coronary artery bypass grafting :CABG)手技関連によるものです。

心臓Tnの上昇すなわち心筋梗塞ではなく,心筋傷害(myocardial injury:MI)と混同しないことが必要です。MIは外傷,心筋症,心筋炎,不整脈,低酸素,腎機能障害などによっても引き起こされ,心筋虚血による心筋梗塞とは明確に区別が必要です。つまり心筋虚血によると思われる症状,心電図変化,生存心筋の消失を示す画像診断あるいは冠動脈造影や病理診断で冠動脈血栓を証明することが心筋梗塞の診断には必須です。

わが国では,universal definitionによる心筋梗塞の診断は,2011年の全国40施設の調査で16施設(40%)のみで用いられていましたが2),全国の施設が参加した多施設共同前向き観察研究である「トロポニン時代における急性心筋梗塞に対する治療の現状とその効果の実態調査」(Japanese Registry of Acute Myocardial Infarction Diagnosed by Universal Definition:J-MINUET)において2012~14年にtype 1,2の症例が登録され,予後解析結果が報告されています3)

心筋梗塞の診断は患者個人のみならず社会的,法的,さらに疫学,臨床研究面にも影響を与えます。パイロットなど特殊な職業従事者の診断書あるいは保険診断書の記載,臨床研究や治験の症例登録,臨床研究の結果の解釈には心筋梗塞の診断基準と分類の理解と注意が必要と思われます。

【文献】

1) Thygesen K, et al:Eur Heart J. 2018 Aug 25. doi:10.1093/eurheartj/ehy462. [Epub ahead of print]

2) 藤野雅史, 他:日冠疾会誌. 2015;21(2):137-40.

3) Ishihara M, et al:Circ J. 2015;79(6):1255-62.

【回答者】

藤野雅史 国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門冠疾患科

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