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ペースメーカ治療が必要な心房細動とは?

No.4933 (2018年11月10日発行) P.61

河野律子 (産業医科大学医学部不整脈先端治療学講師)

登録日: 2018-11-10

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心房細動の場合,ペースメーカの適応となる徐脈が起こる原因として,どのようなものがありますか。

(長崎県 N)


【回答】

【徐脈頻脈症候群や完全房室ブロックの合併時に適応】

慢性心房細動では,症状がなければペースメーカ植込み適応はありません(表1)1)。しかし,徐脈による症状が生じた場合には,ペースメーカ植込み適応となります。症状とは,失神,眼前暗黒感,めまい,息切れ,易疲労感などの自覚症状だけでなく,胸部X線による心拡大や浮腫などの検査所見や身体症状も含まれるため,診察時に確認する必要があります。高齢者では長期経過の中で,自ら活動を制限して適応させていることもあり,生活状況の変化を確認することも必要です。

そもそも正常の刺激伝導系では,右房にある洞結節から刺激が発生し心房内を伝導し,房室結節からHis束を通過し,右脚と左脚を通り最終的には,心筋内に広がるプルキンエ線維を介して右室心筋と左室心筋に刺激が伝導し心室興奮が起こります(図1)。正常洞調律時には,心房と心室の収縮が規則正しく順番に起こりますが,刺激伝導系の中でも洞結節や房室結節に障害が生じると徐脈を呈することとなります。
心房細動患者においてペースメーカが必要となる徐脈が生じる原因として,以下の3つの状況が想定されます。

(1)徐脈頻脈症候群

1つ目は,洞不全症候群Rubenstein分類Ⅲ型に分類される徐脈頻脈症候群です。洞機能障害の患者では,発作性心房細動や発作性心房粗動などの上室性頻拍が停止し洞調律に戻る際に,頻脈によって洞結節が抑制されて,数秒から10秒を超える洞停止が生じた後に洞調律に復帰します。徐脈頻脈症候群は,高齢者の失神の原因としてたびたび確認されペースメーカ適応となります。しかし,症状がないときには12誘導心電図やホルター心電図を繰り返し行っても,正常洞調律や心房細動のみであるため証拠をとらえがたく,診断には植込み型心電計をはじめとする長時間モニターが有用となります。また,徐脈頻脈症候群では,発作性心房細動時には頻脈を呈して動悸症状が生じやすく,その動悸を抑えるために洞調律維持や脈拍コントロールを行うことになります。その際には,βブロッカーや抗不整脈薬を使用することになりますが,これらの薬剤を使用することで洞調律復帰時の心停止時間は長くなり,徐脈による症状が増悪することになります。徐脈頻脈症候群では,必要な薬剤を使用する妨げになるため,ペースメーカで徐脈に対処した上で,頻脈は薬剤でコントロールします(表1)。

(2)房室伝導障害

2つ目は,慢性心房細動に合併して房室伝導障害が生じた場合です。洞調律時に生じた房室ブロックは,心電図のP波とQRS波の関係を確認することで発見されやすく馴染みのあるものです。当然,慢性心房細動の患者であっても,房室伝導障害が生じることはあり,その際には徐脈を呈することになります。完全房室ブロックを合併した場合には,慢性心房細動に規則正しくHR 30~50bpm程度の補充調律が生じます。このため,慢性心房細動であるにもかかわらずホルター心電図の心拍トレンドグラムで脈拍変動が一定となっている患者では注意が必要です。房室ブロックの適応に準じたペースメーカ治療の対象となります(表1)2)。 

(3)心房静止

3つ目として,稀な例ではありますが心房静止が挙げられます。長期間の慢性心房細動やその他の理由によって,まったくf波が確認されない心房静止が生じた際にも,脈拍は房室接合部や心室からの補充調律で維持され,比較的規則正しい徐脈が生じる可能性があります。

(4)まとめ

上記のように,洞機能,心房機能や房室伝導能が徐々に低下して徐脈が進行する過程では,数秒程度の心停止は日中や夜間に生じる可能性があります。夜間帯であれば多くは症状を伴わず,また日中であっても数秒程度なら症状がない場合も多くみかけます。筆者らの施設では,ホルター心電図検査で1日の総心拍数が6万~6万5000拍以下で症状がある場合や,6万拍以下であれば症状の有無を問わずペースメーカ植込み適応と判断しています。ペースメーカ植込みが生命予後を改善する可能性はいまだ明らかではないため,その適応は症状と徐脈との関連を慎重に判断すべきです。

【文献】

1) 奥村 謙, 他:不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版).
[http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf]

2) 石川利之:心臓ペーシングのすべて. 改訂2版. 中外医学社, 2015, p116-8.

【回答者】

河野律子 産業医科大学医学部不整脈先端治療学講師

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