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ポータブル嚥下内視鏡で食べることを最後までサポートしたい[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(3)]

No.4912 (2018年06月16日発行) P.14

登録日: 2018-06-14

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嚥下機能の低下がもたらす摂食障害や嚥下性肺炎、誤嚥性肺炎は増加の一途を辿っている。摂食嚥下障害の治療には重症度の適切な評価が重要となるが、検査の主流をなす嚥下造影検査(VF)はX線の設備が必要になるため手軽には実施でき ない。今回は、ポータブルタイプの嚥下内視鏡を検査に活用している在宅クリニックの事例から、QOLを重視した医療提供のあり方を考えたい。【毎月第3週号に掲載】

高齢者の増加に伴い、医療現場では診療科を問わ ず、「食事を食べてくれない」「食事中にむせる」といったさまざまな摂食嚥下障害が大きな問題となっている。東京・文京区で在宅医療専門の「コーラルクリニック」を経営する石垣泰則院長は、嚥下機能の低下に苦しむ在宅療養患者に数多く接し、原因疾患の特定に加え、重症度の適切な評価が重要との観点から、約2年前にポータブルの嚥下内視鏡を導入した。

「摂食嚥下障害は窒息や肺炎、低栄養、脱水など生命の危険につながることも多く、特に在宅療養が必要な患者さんにとっては状態の丁寧な観察と機能回復に向けた訓練や治療が大切です。嚥下機能の検査はこれまで、X線設備のある医療機関で造影剤で加工した食物を摂ってもらい、どのように通過するのか、どこに食物が残っているのかをチェックしていましたが、在宅では難しいという問題がありました」(石垣さん)

そこで持ち運びが可能な嚥下内視鏡を導入したところ、場所を選ばずに検査ができるようになったという。

「まず喉の動きを見て、食べられそうな人には食べてもらって検査を行いますが、明らかに摂食が難しい人に無理やり食物を口に入れてもらう必要がなくなり、患者さんの負担も軽減していると感じます。検査食は造影剤で加工されているので日頃食べるものとは異なります。その点、嚥下内視鏡は普段食べているもので検査を行えるので、より日常生活に近い形で機能を確認できるというメリットもあります」(同)

PCで画像を確認しながら操作できる

石垣さんが導入しているのは、PENTAX Medicalのポータブルマルチスコープ「FP-7RBS2」(https://japan.pentaxmedical.com/pentax/jp/109/5/Portable-multiscope)。持ち運びが可能なので検査室に移動する必要がなく、診療所のベッドサイドで活用できる。丸洗いや薬液浸漬ができるため、メンテナンスもしやすい。

石垣さんがFP-7RBS2を選んだ最大の理由は、専用のデバイスを必要とせず、ノートパソコンなどと接続すれば画像を確認できるなど高いモバイル性を備えている点だ(図)。「嚥下内視鏡は数社から発売されていますが、専用のデバイスが必要なものがほとんどです。自分のPCに接続できるタイプを探していたところFP-7RBS2に辿りつきました。画像(写真)を見ながら操作できるので、患者さんの安心にもつながります。吸引はできませんが、必要な機能に絞ったことで小型化され持ち運びがしやすいサイズになっています。プライマリケアの場面ではスクリーニングが重要なので、とても有効なツールです」

食べることはQOLの中心

摂食嚥下障害の主な原因となるのは、脳卒中や神経疾患、加齢によるサルコペニアなどだ。うち約4割を占める脳卒中など急性疾患による摂食嚥下障害は、多くがリハビリで改善するとされているが、パーキンソン病やALSなどの神経難病が原因の場合は治療が難しく、そのまま進行していくケースが多い。

食べることは単なる栄養補給の手段にとどまらず、家族とのコミュニケーションを楽しむ場でもあり、QOLの中心と言っても過言ではない。神経内科を専門とし、神経難病や認知症の患者を多く診る石垣さんは、これらの患者は予後が長いことから、嚥下機能の維持を重視し、「経口で食べられるようになること」を目標の1つとしている。

「胃瘻で栄養面を改善しても、口から好きなものを食べられないのでは十分とは言えません。状態が改善して食べられるようになれば、食べさせてあげる周囲も幸せになります。これまでそうした患者さんや家族をたくさん目の当たりにしてきました。パーキンソン病であっても薬の調節で嚥下機能が改善できるケースは珍しくありません。加齢に伴う嚥下障害でも廃用に起因する機能低下は改善が見込めるため、栄養剤の投与でまた食べられるようになることもあります。最後まで食べる喜びをあきらめず、体験してもらえるようなサポートを続けていきたいと考えています」

摂食嚥下障害にはチーム医療が重要

石垣さんは、摂食嚥下障害の患者は複数の疾病を有しているケースが多いことを踏まえ、主治医だけでなく、耳鼻科医やリハビリ専門医、歯科医、看護師、管理栄養士、言語聴覚士などで構成するNST(Nutrition Support Team)で取り組むことがアウトカム向上につながると指摘する。

例えば、口腔ケアでは口内の細菌を減らすことに加え、ブラッシングで口腔内を刺激して嚥下や咳の反射を改善させる効果も期待できる。また嚥下訓練では管理栄養士と協働しながら機能に応じたユニバーサルデザインフードを使うことも有効だ。こうした状況を踏まえ、2016年に「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」制度を発足させるなど、厚生労働省もNSTによる取り組みを推進している。

複数機関の訪問診療料算定で連携に期待

2018年度診療報酬改定では、1人の患者について、「在宅時医学総合管理料」などを算定している医療機関からの要請を受け、診療科が異なる他の医療機関が訪問診療を行った場合でも、「在宅患者訪問診療料」の算定が可能になった。石垣さんはこの見直しをきっかけに他科との連携が進むことを期待する。

「普段はかかりつけ医の先生が医学管理を行い、月に1回程度は専門の先生が診察し、必要に応じてポータブル嚥下内視鏡で検査をする。こうした検査をしっかり行い、嚥下の状態を把握した上で、NSTによるチーム医療につなげていくという形が各地に広がっていけば、摂食嚥下障害の患者さんのQOLはかなり向上すると思います」(石垣さん)

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