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[「未決拘禁者」に対する矯正医療【下】]拘置所の医療提供が担う役割は「保険診療から矯正医療への橋渡し」〈提供:法務省矯正局〉

登録日: 2026.01.21 最終更新日: 2026.02.21

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刑事施設の被収容者は2024年末時点で約4万人、そのうち刑事裁判の判決が確定していない「未決拘禁者」(いわゆる刑事被告人)が約6,000人存在する。未決拘禁者を主に収容する拘置所は、公正な裁判を維持する目的で被収容者を拘禁している。
捜査機関と司法機関の間に立ち、被収容者の健康を適切に管理することが求められる拘置所の矯正医療。シリーズ2回目は、矯正医療に20年携わり、現在は拘置所で働く矯正医官への取材を通じて、“矯正医療のリアル”を紹介する。(写真は拘置所内の医療棟風景)

未決拘禁者とは、裁判で有罪判決が確定する前に身柄を拘束されている被疑者や被告人を指す。主に未決拘禁者を収容する拘置所は、全国に8カ所(医療重点施設:1カ所、一般施設:7カ所)ある。拘置所にはこのほか死刑判決は確定しているが、未執行の死刑確定者なども収容されている。

矯正医官として刑務所で7年、拘置所で13年のキャリアを持つB医師は、一般施設で日々診療に従事している。

裁判を公正に進めるための適切な医療

B医師は医学部を卒業後、外科学教室に入局。免疫学や法医学にも興味を持ち研鑽に励んでいたところ、開業医の父が倒れクリニックを継承した。しかし1年ほど経つと、当時普及し始めた電子カルテやレセコンといった医療のデジタル化やそれに対するセキュリティ対策が、保険診療で運営される一般開業医にとって特にコスト面で過大な負担になっていくと予想したことから、医師として診療に集中できる勤務医に復帰したいという気持ちが強くなり、医学雑誌で募集を知った刑務所の矯正医官の面接を受けて採用。その後、前任者の退職に伴い現在の拘置所に赴任した。

刑務所と拘置所の両施設で合わせて20年にわたり矯正医療を経験した立場から、未決拘禁者に対する医療についてB医師はこう語る。

「拘置所は裁判を公正に進めるために身柄を拘禁する施設ですので、被収容者の生命・健康を維持することを目的に、最先端ではないけれど標準的な医療を提供します。診療においては一般のクリニックと同じように、入所時のスクリーニングとして問診、診察を行い必要に応じて検査を追加することもあります。当施設で行える検査は血液検査とX線です。詳しい検査が必要な場合は近隣の病院を紹介して精査することになります。裁判の後、一定数が刑務所に収容される現実を踏まえると、一般医療機関での保険診療から刑務所における矯正医療への橋渡し役を担う存在であると考えています」

拘置所では、弁護士から医療的申し入れや被収容者から一般医療機関を受診していたときと同じ薬を処方してほしいという要望などへの対応が必要になる。

「入所後早期に弁護士から医療的な申し入れがあった場合、診察の所見を担当係から丁寧に説明します。納得してもらえないケースでは、これ以上の詳しい検査や投薬は必要ないという根拠を示すために近隣の病院でCT検査を行うこともあり、検査は刑務所時代よりも多く実施している印象です。中には無料だからと、気軽に血液検査を希望する被収容者がたまにいますが、医療上の必要性がない場合は『ここは人間ドックではないので必要のない検査はしません』とお断りします」

矯正医療は糖尿病治療の効果が出やすい

拘置所では、精神疾患や依存症、慢性疾患、感染症、外傷、歯科疾患など多様な医療ニーズが存在する。中でも公判前のストレスや睡眠障害に加え、アルコールや薬物の離脱症状、未治療の糖尿病・高血圧症など入所前の医療アクセスの欠如が背景にある病態が少なくない。矯正医療で治療効果を特に感じやすいのが、糖尿病治療だという。

「警察の留置施設から移送されてくる糖尿病治療中の被収容者は大量の薬を処方されてくるケースがありますが、ほとんどが食事療法をしていません。拘置所では食事療法によるカロリー制限が行いやすく、かなりの確率で症状が大きく改善し、減薬にもつながります。日本矯正医学会でも発表されたことがありますが、矯正医療で糖尿病は治っていく確率が高く、被収容者の症状が改善すると、医師として達成感があります」

自施設で対処可能か迅速に峻別

拘置所における矯正医療の役割とは何か。B医師は拘置所という組織がスムーズに運営されるために医療がどう関われるかという意識を重視している。

「例えば重篤な症状が認められた場合、自施設で対処可能か迅速に峻別し、できるだけ速やかに病院へ搬送するようにしていますが、そのまま入院する病院移送のケースでは、警備や手配車両などで少なくとも1日6名の職員が帯同することになり、他の通常業務への影響を最小限にとどめる必要があることから、退院できる状態になったら1日でも早く当施設で観察を行えるように地域の病院と連携します」

拘置所では、心血管や脳神経、透析、産科・外科救急など施設内完結が困難な医療は外部依存せざるを得ない状況にあり、地域医療との信頼関係がそのまま治療アウトカムに直結するため、B医師は日ごろから矯正医療に対する認知拡大を念頭に地域病院との連携を図っている。

医師という立場で刑事司法の一翼を担う

B医師の勤務は平日の7時半から17時、木曜日は午前のみのシフトとなっている。施設には医師がもう1名。正看護師が2名、准看護師の資格を持つ刑務官が4名という体制だ。夜間や休日は宅直の看護師が対応し、医師の判断を仰ぐ場合、電話連絡がある。必要に応じ登庁することもあるが、B医師は現在のライフワークバランスに満足している。

「木曜日の午後は自己研鑽に充てることができ、平日の残業もほとんどありません。矯正医官としての『やりがいは』と問われれば、医師として患者を治療することは当然ですが、国家公務員として刑事司法の一翼を担い、国家の責務として被疑者・被告人に対し適切な医療を行うことで、国内のみならず国際社会の中で適切な医療を実施しているというプレゼンスを高められることにあると感じます。被収容者の医療ニーズは非常に多岐にわたります。いろいろな領域でのキャリアが矯正医療では生かすことができます。国家の一員としての社会貢献にやりがいを感じる先生方には、ぜひ一度矯正医療を経験していただきたいと思います」

【関連情報】
矯正医官募集サイト(法務省ホームページ内)

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