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[再犯防止の基盤をつくる~矯正医官という選択①]「本当に社会をよくしたいと思う先生は矯正医療をぜひ経験してほしい」〈提供:法務省矯正局〉

No.5149 (2022年12月31日発行) P.14

登録日: 2023-01-22

最終更新日: 2023-03-22

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  • 刑務所・少年院などで医療に従事する矯正医官の職場環境は、2015年の矯正医官特例法施行で大幅に改善され、いま、再犯防止の基盤をつくる矯正医療をキャリア形成の場として選択する医師が増えている。2022年1月~3月にお届けした「変わりゆく矯正医療の現場」(全3回)の続編となる本シリーズでは、様々な施設・立場で矯正医官として働く医師たちの実像・本音に迫りたい。第1回は、矯正医療のあらゆる類型を経験してきた東日本成人矯正医療センター長の奥村雄介医師に話を聞いた。

    東日本成人矯正医療センター長 奥村雄介医師

    犯罪者や非行少年を収容し、改善更生のための処遇等を行う矯正施設には、刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)、少年院、少年鑑別所などがある。

    矯正施設は、被収容者の診療や健康管理を行うため病院や診療所の機能も有する。刑事施設の医療システムは「医療専門施設」「医療重点施設」「一般施設」の3層、少年施設の医療システムは「第三種少年院」「一般施設」の2層に階層化されている(参照)。

    一般医療以上に総合判断力が求められる

    全国に4カ所ある医療専門施設のうち「矯正医療最後の砦」として最大規模を誇る施設が東日本成人矯正医療センターだ。センター長を務める精神科医の奥村さんは、「人間の本質を知るには精神病と犯罪の関係を極める必要がある」という思いから、東大病院分院勤務を経て、自ら進んで1987年に矯正医療の世界に足を踏み入れた。以来、拘置所、刑務所、医療刑務所、少年鑑別所、少年院、医療少年院とあらゆるタイプの矯正施設を経験。矯正医療の実情、受刑者の再犯防止に果たしている役割を最もよく知る人物である。

    矯正医官は臨床的な判断をする際、「病気と犯罪の2つの変数」を念頭に置かなければならない。奥村さんは矯正医療と一般医療との違いについてこう説明する。

    「矯正医療では自由意志に基づいて治療契約を結ぶわけではないので、被収容者に選択の自由がないだけでなく、治療者の側も患者を選ぶことはできません。刑務作業を避けるため被収容者が詐病等を用いる場合もあり、医療に逃げ込む人がいたら見抜いて押し返さなければなりません。そういう意味で、矯正医官は一般医療以上に総合判断力が求められます」

    矯正医療の医療費は原則国費で賄われる。そのため、薬剤を制限なく使うことはできず、様々な工夫をしながら、必要にして過剰にならない医療を効率よく提供する必要がある。そうした難しさはあるものの、奥村さんは矯正医官の仕事には大きなやりがいがあると語る。

    「病気だけでなく、その人の人生全体を見ることができるところが魅力ですね。少年院では、この子は家族関係にどんな問題があり、どんな生活をし、どんな非行をしたかなど全部見ます。収容中は24時間の動きを見ていますので、入ってくる情報が多次元にわたり、かつ濃密なんです。人間の勉強をするには一番良い場所だと思いますね」

    特例法は矯正医療再生の「一里塚」

    かつて矯正医官の充足率は70%台まで低下し、「矯正医療は崩壊の危機にある」とまでいわれた。2015年の矯正医官特例法(矯正医官の兼業の特例等に関する法律)の施行で、矯正施設外での兼業がしやすくなり、柔軟な勤務時間配分も可能になるなど、労働環境は大幅に改善。その効果で充足率は約90%(2022年6月現在)まで回復した。しかし奥村さんは「特例法は矯正医療再生への一里塚」と捉え、本格的な再生にはさらなる環境の整備が必要と考えている。

    「特例法で労働条件が整えられ、矯正医官になる医師は増えてきましたが、施設内の仕事と外部での研究・臨床のバランスをもっと調整する必要があると思います。施設内の症例は限られているので、専門医資格を維持するのは難しい。もう少し大学などと自由に行き来できるようになるといいのですが」

    矯正医官の教育システム構築も課題

    地方の刑務所などには矯正医官の定員が1名の施設もある。そのような施設で1人医務課長として働く矯正医官の教育、他施設の矯正医官とのコミュニケーションのシステムを構築し、矯正医療の施設間格差を縮小していくことも今後の課題だ。

    東日本成人矯正医療センターは、主に東日本の刑事施設から専門的な医療を必要とする受刑者が日々運ばれてくるため、病院機能を有し、一般内科、外科に限らず、精神科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科など幅広い診療科を備えている。そんなセンターもまだマンパワー不足の状態にあり、慢性疾患の管理ができる内科医や手術ができる外科医などを現在募集している。

    奥村さんは、社会のために使命感を持って働ける矯正医官の仕事を、より多くの医師に経験してほしいと呼びかけている。

    「本当に社会をよくしたい、人を救いたいと思っている先生には、病気の治療とともに再犯防止に貢献できる矯正医療を、一時的でもいいからぜひ経験してほしいですね。その経験は、後に開業する時や大学での研究に必ず役立つと思います」

    (→次ページ「前例のない一大事業となった八王子医療刑務所から東日本センターへの施設移転」へ

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    【関連情報】

    矯正医官募集サイト(法務省ホームページ内)

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