株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

胸膜腫瘍(悪性胸膜中皮腫を含む)

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-12
中野孝司 (大手前病院呼吸器内科・腫瘍内科顧問,呼吸器センター長,臨床研究センター長)
栗林康造 (兵庫医科大学呼吸器内科准教授)
    • 1
    • 2
  • next
  • ■疾患メモ

    原発性胸膜腫瘍には,主に臓側胸膜に発生する孤在性胸膜線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)と壁側胸膜に初発する悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma:MPM)がある。

    SFTは,中皮細胞由来と考えられ,良性限局型胸膜中皮腫などと呼ばれてきたが,中皮下層の間葉系細胞由来であることが明らかになり,疾患名が変更されている。やや女性に多く,多くは良性で,胸腔内にポリープ状に発育する。

    MPMはきわめて予後不良の悪性腫瘍である。すべての胸膜を腫瘍化するように発育するため,びまん性悪性胸膜中皮腫とも呼ばれる。

    中皮腫は稀な腫瘍であったが,世界的に増加する傾向があり,日本ではICD-10が導入された1995年の500人から,2014年には1376人に増えている。

    MPMとアスベスト曝露は密接に関係するが,SFTとアスベストの関係はない。

    MPMは壁側胸膜の顆粒状腫瘍で初発する。最も早期には腫瘍は壁側胸膜に限局し,臓側胸膜には腫瘍が認められない(IMIG分類T1a)。次に,臓側胸膜に播種巣が形成される(T1b)。

    その後,葉間胸膜を含むすべての胸膜面を埋め尽くすように発育・進展し,特有の画像を呈するようになる(T2)(図1)。腫瘍は肺実質(T2)や内胸筋膜(T3)・縦隔脂肪組織(T3)にも浸潤し,また横隔膜筋層に浸潤(T2)して腹腔に達する(T4)。

    03_36_胸膜腫瘍(悪性胸膜中皮腫を含む)

    ■代表的症状・検査所見

    1) 孤在性胸膜線維性腫瘍(SFT)

    【症状】

    過半数は無症状の健診発見である。大きく発育すると咳,胸痛,呼吸困難を呈する。

    腫瘍随伴症状には,低血糖(Doege-Potter syndrome)と肥大性肺性骨関節症(Pierre-Marie-Bamberg syndrome)がある。低血糖は腫瘍からの高分子IGF-2(insulin-like growth factor-2)の過剰分泌が原因である。

    【検査所見】

    境界明瞭の孤在性腫瘍の画像所見を呈し,30%に石灰化がある。胸腔を占拠するほどの大きさに発育することがある。稀に体位や呼吸によって有茎性腫瘍の位置が変わる。

    胸腔鏡では被覆された有茎性腫瘍が認められ,茎に拡張した血管が確認できる。紡錘形細胞と豊富なコラーゲンが病理所見の特徴で,中皮細胞マーカーのサイトケラチンは陰性で,間葉系細胞マーカーのビメンチンが陽性である。

    2) 悪性胸膜中皮腫(MPM)

    【症状】

    病初期は無症状で,胸水の増加に伴い胸部圧迫感・労作時呼吸困難(dyspnea on exertion:DOE)が出現する。胸痛はT1期にはなく,胸壁浸潤が始まるT2以降に自覚する。進行すると高度になる。

    肺癌に比し遠隔転移は少なく,局所浸潤の症状が主である。

    【検査所見】

    胸水細胞診は診断の第一歩であるが,反応性増殖する中皮細胞は偽陽性所見を呈することが多く,細胞診のみで診断をするべきではなく,組織診断を併せて行う。

    適切な組織採取やT因子の診断(T1~T2)には胸腔鏡検査が必要である(図2)。

    03_36_胸膜腫瘍(悪性胸膜中皮腫を含む)


    血清診断マーカーには可溶性メソテリン関連ペプチド(soluble mesothelin related peptides:SMRP,基準値1.5nM/L以下)がある。SMRPはメソテリン可溶化分子のC末端断片であり,感度・特異度が高い(感度64%,特異度89%)。また,N末端のmegakaryocyte potentiating factorも診断マーカーとなり,両者は相関する。

    CEAは代表的な中皮腫陰性マーカーであり,肺腺癌の80~100%が染色されるが,中皮腫は染色を受けない。これは血清および胸水に反映され,中皮腫ではCEA値の増加はない。

    多くの中皮腫細胞はIL-6を産生するので,血清IL-6レベルは高くなり,血小板増多やCRPなどの急性期炎症蛋白の増加がみられる。

    1190疾患を網羅した最新版
    1252専門家による 私の治療 2021-22年度版 好評発売中


    PDF版(本体7,000円+税)の詳細・ご購入は
    コチラより

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    page top