株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

“病院嫌い”は私たちがつくっているかもしれない[炉辺閑話]

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • prev
    • 1
    • 2
  • 人々に健康への支援ニーズが生じ、医療機関を受診しその健康状態が改善するまでのプロセスには複数の障壁があります(Levesque, et al, 2020)。たとえば、「健康に関する適切な情報の取得可能性」、「医療を受けることに関する文化的規範」、「地理的、時間的な医療の利用可能性」、「受診にかかる直接・間接費用、機会費用」、「医療従事者の医療技術、協調性」などです。それぞれの障壁を越えるために必要な人々の能力には、「健康のニーズを認知する能力」、「医療による支援の必要性を受け止め、検索する能力」、「必要な医療に到達する能力」、「費用や時間を支払う能力」、「ケアに自分自身が従事する能力」などがあります。

    医療による支援を希望する人は、多くの障壁を乗り越えようやく医療機関に受診しています。その経緯への配慮なく、無意識的な差別的言動を表出してしまえば、その人の相談・治療意欲を奪ってしまいます。上述の「医療を受けるべきかという文化的な規範」の障壁や「医療従事者の医療技術、協調性」という障壁が、その人の能力よりも大きくなれば、その人は医療機関への受診というアクションが起こせなくなります。すると、医療は真に支援が必要な人にアプローチするチャンスを失ってしまいます。

    このような日常に埋め込まれた無意識的な差別や偏見は人々のスティグマの原因となります。スティグマとはその人に押された負の烙印のことで、医療従事者はスティグマの発生源のひとつです(加藤, 2016)。スティグマの存在そのものが健康のリスクだということも知られています(Hatzenbuehler, et al, 2013)。このようなスティグマを介して、いわゆる“病院嫌い”の人々を私たちがつくっているかもしれません。

    真に健康の支援を必要とする人を無意識的に傷つけ、医療から遠ざけていないかを念頭に置きながら、ともに診療の場を創っていくことが重要だと感じています。

  • prev
    • 1
    • 2
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top