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(2)  ノロウイルスの臨床診断・検査の特徴と結果の解釈[特集:新型ノロウイルスの流行に備える]

No.4893 (2018年02月03日発行) P.28

本村和嗣 (大阪健康安全基盤研究所微生物部ウイルス課総括研究員/大阪府感染症情報センターセンター長)

登録日: 2018-02-02

最終更新日: 2018-01-31

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  • 40~48時間の潜伏期間を経て,発熱,嘔吐,下痢などの症状を呈する

    臨床現場では,迅速,高精度の診断が必要となるため,迅速検査キットが有用である

    1. ノロウイルスの疫学

    ノロウイルスは感染性胃腸炎の原因となる。ウイルス粒子は,電子顕微鏡下で直径30~38nmの正二十面体で,32個のコップ状のくぼみのある球形粒子として観察される小型球形ウイルスである。ノロウイルス感染症は,わが国において,秋から冬季にかけて全国的に流行する。直近10年では,2012/13シーズン,2015/16シーズン,2016/17シーズンで,ノロウイルス新変異株が出現し,感染性胃腸炎症例数の増加が報告されている1)。2016/17シーズンは,小児を中心に,ノロウイルス感染症の集団発生事例が発生し,直近10年では,10~12月の間の集団発生事例報告数も過去最大となった1)

    本稿では,秋冬季に流行するノロウイルス感染症の臨床症状,臨床診断,検査を紹介する。

    2. ノロウイルスの臨床診断

    1 ノロウイルスの臨床症状

    ノロウイルスは,わが国において,毎年,秋冬季に流行する感染性胃腸炎の原因ウイルスである2)。わが国では,ノロウイルスは,2000年代以降,感染性胃腸炎の原因ウイルスの第1位になっている。経口摂取後,小腸(空腸,回腸)上皮細胞に感染し,40~48時間の潜伏期間を経て発症する3)。ヒトに対しては,発熱,嘔吐,下痢などの症状が起きるが,致死的ではなく,その多くは数日の経過で自然に回復する。しかしながら,腸管免疫が確立されていない小児,高齢者では重篤化し,また,高齢者では,嘔吐物が気管に詰まり窒息死するケースが毎年,報告されている。さらに,免疫抑制薬を服用している者では,ノロウイルスの排出が28日以上続いた症例が報告されている4)

    ゲノム配列情報の違いをもとにgroupⅠ~Ⅴの5つのグループ(遺伝子型)にわけられる。グループごとに宿主域が異なり,groupⅠ,Ⅱ,Ⅳはヒト,groupⅢはウシ,groupⅤはマウスに感染する。各グループは,遺伝情報の相違をもとに,さらに細分化される。groupⅠは1~9型,groupⅡは1~22型,groupⅣは1~2型にわけられる5)。1990年代後半以降,世界ではノロウイルスの周期的流行が確認され,groupⅡの4型(GⅡ.4)が主な流行株となっている6)7)。1996/97,2002/03,2004/05,2006/07,2012/13シーズンは,世界中で大流行をきたした。このため,GⅡ.4は,公衆衛生の観点から特に重要なウイルスで,近年,重点的に解析されていた。しかし,直近2年では,2015/16シーズンはGⅡ.17新変異株,2016/17シーズンはGⅡ.2新変異株が流行し,主要な流行株の遺伝子型は多様化してきている8)。様々な遺伝子型が存在しているが,遺伝子型によって,病原性の差,臨床症状の違いが生じるかどうかは明らかになっていない。

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