株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(1)最新の流行状況と新型ノロウイルス[特集:新型ノロウイルスの流行に備える]

No.4893 (2018年02月03日発行) P.24

木村博一 (群馬パース大学保健科学部検査技術学科教授)

長澤耕男 (千葉大学大学院医学研究院小児病態学)

藤田清貴 (群馬パース大学保健科学部検査技術学科教授)

登録日: 2018-02-02

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • 過去数シーズンに発生したウイルス性大規模食中毒事例の原因の多くは,新型ノロウイルスGⅡ.17である

    小児のノロウイルスによる胃腸炎の原因は,2012~2015/16シーズンまでは,GⅡ.4が主流であったが,2016/17シーズンはGⅡ.2であった

    1. ノロウイルス(NoV)のウイルス学的・疫学的知見

    1 命名と分類の由来

    古くから,冬季に流行する冬季嘔吐下痢症(winter vomiting disease)や二枚貝(特にカキ)の喫食後に発症する嘔吐下痢症(oyster-associated gastroenteritis)の存在は疫学的に知られていたが,原因となる病原体は不明であった。ノロウイルス(Norovirus:NoV)は,ウイルスハンターの異名をとる米国国立衛生研究所のカピキアン博士により,電子顕微鏡下で,1968年にオハイオ州・ノーウォークで発生した学童集団下痢症の患者糞便中から初めて発見された1)。発見されてからしばらくの間,これらのウイルスは,Norwalk agentと言われていたが,その後,類似のウイルスが次々と発見された。これらを見わける方法として,免疫電子顕微鏡観察においてNoV感染履歴のある患者血清と免疫学的反応がみられるウイルスをNorwalk virus,それ以外の類似形態を示すウイルスをノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like virus:NLV)と分類するようになった。この間,電子顕微鏡下での形態学的所見のみで,小型球形ウイルス(small round-structured virus:SRSV)と分類されることもあった。

    その後の疫学的・ウイルス学的研究により,NoVは上述の冬季嘔吐下痢症やカキに関連する胃腸炎に関与しているだけでなく,すべての年齢群における急性胃腸炎の主要な病原ウイルスであることが明らかになった1)。そして,さらなるウイルス学的・遺伝学的知見の集積をもとに,このウイルスは,2002年に国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)において,ノーウォークウイルス(カリシウイルス科・ノロウイルス属・ノロウイルス種)と命名された。属名のNorovirusは,最初に発見されたノーウォークという地名に由来する。Norovirus属には今のところ種としてNorwalk virusのみが発見されているため,NorovirusとNorwalk virusを同義のウイルスとして,Norovirusをウイルス名として使用している。

    後述のようにNorwalk virus種には5つの遺伝子グループが存在する2)。遺伝子群Ⅰ(GⅠ),Ⅱ(GⅡ)およびⅣ(GⅣ)は主にヒトに感染し,遺伝子群Ⅲ(GⅢ)はウシを宿主とするNorovirus(Bovine norovirus:BoNoV)であり,遺伝子群Ⅴ(GⅤ)は齧歯目(ネズミ)を宿主とするNorovirus(Murine norovirus:MNV)である。よって,ヒトに感染するNorovirusをHuman Norovirus(HuNoV)と表記して,動物に感染するNoVと区別して表記することがある。
    ちなみに,電子顕微鏡下でNoVと形態学的に類似し,急性胃腸炎に関与する別のウイルスもあるが,このウイルスは,発見地である札幌にちなみ,サポウイルス(Sapovirus属・Sapporo virus種)と命名されている。SapovirusもNorovirusと同様,Sapovirusをウイルス名として,ヒトに感染するSapovirusをHuman Sapovirus(HuSaV)と表記することがある。

    残り2,991文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top