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恩師の「やまい」[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.80

岩瀬弘敬 (熊本大学大学院生命科学研究部乳腺・内分泌外科学分野教授)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-22

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私の恩師は、名古屋市立大学にて業績を積まれ、第10回日本乳癌学会学術総会会長を務められた故小林俊三先生である。

先生におかれては、数年前の夏に肝転移を伴うHER2(ヒト表皮増殖因子受容体2型)陽性進行胃癌が見つかり、ヒト化抗HER2抗体であるトラスツズマブを中心とした化学療法をお受けになった。治療は一定の期間奏効して、闘病中に一般向けの本を2冊上梓されたのであるが、残念なことに約2年半の闘病後にお亡くなりになった。HER2は小林先生ご自身の乳癌研究の柱でもあり、トラスツズマブは我々乳腺外科医にとっては15年来使用してきたなじみの深い薬剤である。ご自身で研究した対象と使用してきた薬剤が、ご自身に廻ってきたというわけである。

私自身は13年前、現職に就く直前に、腎細胞癌で左腎臓摘出術・リンパ節郭清術を受けている。幸いなことに今まで再発はなく、昨年7月には第25回日本乳癌学会学術総会の会長を無事に務めあげることができた。私の研究の柱は乳癌ホルモン療法耐性の機構解明にあるが、2、3年前にホルモン療法に耐性となった転移・進行乳癌に対しmTOR阻害薬であるエベロリムスが承認・発売された。この薬剤開発にあたっては私自身も複数の治験に参加し、現在も多くの患者に用いている。

実は、エベロリムスは乳癌の適応の前に「切除不能腎癌」の適応が先行している。私はこの馴染みの薬剤を、恩師が自身の「やまい」に用いられたと同様に、自分自身に将来使用するかもしれない。

恩師の「やまい」は、私にとって真に弟子への教示となっている。

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