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あぁ、国際貢献[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.95

寳金清博 (北海道大学病院病院長)

登録日: 2018-01-06

最終更新日: 2017-12-22

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世の中、食い逃げ、詐欺、窃盗が当たり前にある。病院も例外ではない。もう、15年ほど前の話である。パキスタンの大富豪という触れ込みの患者親子が入院してきた。脊髄の難病である。心細気で臆病な目をした患者の少年と、見事なキングスイングリッシュを話す父親である。

現在では、無保険の外国人の予定入院は、幾何かの前払いが当たり前である。料金も、数倍に設定している。「ぼったくり」と言えば言えないこともないが、この料金にしても、世界水準からみれば破格の低価格である。

しかし、この頃は、まだ外国人の診療の費用も日本人と同じで、時には、校費と言われる税金によるタダ診療・治療もまかり通っていた。「医療は日本の税金を使っていますから……」などと反対しようものなら、「アンタ、『医は仁術』『国際貢献』という言葉を知らんのか!」と、教授から厳しく揶揄された。空恐ろしい、底抜けに無防備な善意であった。

手術は無事終了。闘病態度も模範的、病棟でのルールも遵守。さすが、裕福層の外国人は違うと、周囲の評判は頗る良好であった。退院間近の頃には、看護師のファンクラブができそうな人気者親子になっていた。今思えば、こういう模範的な患者こそ、疑惑の眼で見るべきであった。退院を控えたある日の朝のことである。「だから、言ったじゃないですか」。その朝、出勤するなり、看護師長から激しい剣幕の電話である。「あの親子、一昨日の外泊から帰りません」「もう、成田から出国したんじゃないですか」「だから、あれほど言ったんですよ。外国人に対して、甘すぎます!!」。火が付いた師長の怒りは収まらない。その後、病院の事務からは容赦ない請求が続いた。医局費用から、診療経費の一部を補塡した。思い出したくない嫌な出来事であった。

しかし、患者は元気になった。実際、お金に窮していたのかもしれない。いつか、元気な姿を見せてくれて、倍返しの支払いにきてくれるのではないか……。またまた、お人好しの浮世離れした医療人の甘さである。

医療の国際化の途、険しである。

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