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医学教育と地域医療[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.70

田中榮司 (信州大学医学部長)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-21

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現在の医学教育では、臨床実習は教育全体の30%以上を占め、その内容も大きく変化している。信州大学での臨床実習は約2年間、72週のプログラムで行われる。前半の36週は6~7人のグループによる実習であるが、後半の36週は学生が1人ずつ臨床現場に配属される。配属先は、県内を中心とした36連携病院の中から基本的に学生が選択する。大学病院も選択肢に含まれるが、多くは一般病院での実習である。

学生はどのように病院を選ぶのだろうか。学生間の情報は豊富で、スタッフの充実度からアメニティーの満足度まで情報として共有されている。大学からの距離は重要な選択基準であるが、やはり実習の充実度が最も重要であることは言うまでもない。故に、学生の実習先として人気のある病院は良い教育が行われており、指導医の質が高いことを示す。これに対し、臨床が忙しくて学生の指導まで手が回らないとか、学生教育は大学の仕事であるとかの反論がある。これらの反論にも一理あるが、見方を変える必要がある。ヒポクラテスの誓いには「彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える」の言葉があり、「教えることは自分が学ぶこと」は教育の基本として知られている。

地域住民にとって、良い病院の基準はいろいろある。たとえば、基本的な診療科がそろい、医師や看護師が親切である、などである。

最近私は、「実習学生が多い」ことは良い病院の条件である、と力説している。患者さんにとって、学生の存在は必ずしも歓迎されない。しかし、これを指導医の質の視点から見た場合、歓迎すべきものであることが理解できる。もしかしたら、将来その地域の医療を担うことになる人材かもしれない。その兆候は既に出ており、卒業生は初期研修病院として、学生時代の実習先を選ぶ傾向が強くなっている。

地域での臨床実習は地域医療と密接に関連しており、地域を挙げて医学教育を熱心に行うことは、地域医療を再構築する一歩になる可能性がある。医療に携わるものは、このことをしっかり認識すべきである。

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